2005年12月20日火曜日

放送やディスクの出力全面禁止へ(D端子含む)

デジタル家電

「2014年以降はD端子への出力を全面禁止」,次世代光ディスクの著作権保護方式が固まる【訂正あり】

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20051220/111766/

光ディスク HDTV アナログ テレビ デジタル放送 コンテンツ 家電製品 著作権 AV機器 光記録 デジタル家電 放送 企業・市場動向
2005/12/20 11:34

 次世代光ディスクが採用する著作権保護方式「AACS」で,コンテンツ事業者や機器メーカーが遵守するCompliance Rules(運用規定)がついに固まった。最大の争点だった「アナログ端子の解像度制限」(ブログ参照)については,日本など特定の地域では2010年まで制限を行わないことで決着をみた。

 ただし,日本の機器メーカーにとって厳しい条項も盛り込まれた。2011年以降は,AACSに対応する機器は,アナログ端子にHDTV映像を出力できなくなる。さらに2014年には,アナログ端子への映像出力そのものが禁止される。

*ここでのアナログ端子とは,D端子,コンポジット端子,S端子などを指す。


 このCompliance Rulesは,DVD ForumやBDA(Blu-ray Disc Association)に所属する各企業による2週間の評価期間を経て,2006年1月には正式に確定する見通し。その直後からAACSのライセンス供与が始まる予定だ。年末から年始にかけての2週間の間に,機器メーカーはこのCompliance Rulesを認めるか,あるいは異議を唱えるか,判断を迫られることになる。

大幅に遅れたAACSのライセンス発効

 本来であれば,2005年夏頃にはComliance Rulesが確定し,AACSのライセンス供与が始まる予定だった。しかし,実際には予定を大幅に超過する結果となった。この結果,東芝は2005年末に予定していたHD DVDプレーヤの発売を延期せざるを得なかった(Tech-On!関連記事)。

 ここまでCompliance Rulesをめぐる議論が長引いたのは,冒頭に挙げたアナログ出力制限機能の導入をめぐって議論が紛糾したためである。有効なコピー防止技術を持たないD端子によるHDTV映像の出力に,最も厳しい見方を示したのが米Warner Bros. Studios社である。同社が主張したのは,ディスクに書き込んだ解像度制限ビット「Image_Constraint_Token(ICT)」の値に応じて,D端子をはじめとするアナログ端子に出力する映像の解像度を制限できる機能(以下,ICT機能)を機器に義務付けること。このWarner社の主張に対して,松下電器産業やソニーは強行に反対した。背景には,デジタル端子を持たなハイビジョン・テレビが広く普及してしまった日本市場の特殊性がある。ICT機能を義務づけると,今まで販売してきたハイビジョン・テレビを利用しても,次世代光ディスクによるコンテンツをHDTV表示できなくなってしまう。

* 「Image_Constraint_Token(ICT)」は,元々はDTCP(digital transmission content protection)で規定されたフラグである。ICTの値を0に設定したコンテンツは,D端子などのアナログ端子にHDTV映像を出力することが禁止され,SDTV映像にダウン・コンバートした信号のみ出力できる。ICTの値を0とするか1とするかは,原則としてはコンテンツ事業者の自由裁量に委ねられる。

 そして12月上旬,双方が一歩ずつ妥協することで,ようやくこの問題に決着がついた。

アナログ停波に続く新たな「2011年問題」が浮上

 AACSの動向に詳しい複数の技術者によれば,今回まとまったCompliance Rulesのポイントは3つある。

1 AACSに準拠するすべての機器は,ICT機能に対応しなければならない
2 日本で販売するパッケージ・メディアについては,コンテンツ事業者は2010年までICT機能を有効にしない。
3 2011年以降に製造する機器は,アナログ端子にはSDTV映像のみ出力でき,HDTV映像の出力はできない。2014年以降に製造する機器は,HDTV,SDTVを問わず,アナログ端子に映像を出力してはならない。

 機器メーカーは2の条項を勝ち取り,そのかわりハリウッドは3の条項を勝ち取るという「痛み分け」の形になった。

 条項1と2によって,機器へのICT機能の搭載を認める代わりに,日本に限ってコンテンツ事業者の自由裁量を制限させる事に成功した。ただし,Compliance Rulesの中で日本だけ名指しした優遇措置をもうけることはできない。そのためにAACS LAが考え出したのが,「次世代光ディスクにおけるICTの運用は,各国のデジタル放送の運用に準拠する」という規定である。日本では,放送事業者がICT機能を使うことは許されていない。これにあわせ,日本で販売する次世代光ディスクについても,これに準ずる形でICT=1(アナログ出力を制限せず)に固定にすることが義務づけられる。ただし2011年1月1日以降は,日本でもコンテンツ事業者がICTの値を自由に制御できるようになる。

 *ARIB(電波産業会)が定めるデジタル放送の運用規定(TR-B14およびTR-B15)には「解像度制限ビット(Image_Constraint_Token)の運用は行ってはならない。必ずImage_Constraint_Token=1と設定すること」との記述がある。

 一方,欧米ではICT機能の使用を制限する法律や運用規定はないとみられることから,同地域で発売するコンテンツについてはICTの値を自由に設定できる。

 とはいえ実際には,ICT機能を使う米映画会社は一部にとどまりそうだ。米The Walt Disney Companyや米Twentieth Century Fox社,米Sony Pictures Entertainment社といった映画会社は,ICT機能を使わないことを明言している。国内の技術者も「客に返品される可能性がある光ディスクの販売を米Wal-Mart Stores,Inc.のような量販店が認めるとは思えない。ICTの運用は無理だろう」と楽観的な見方を示す。

 条項3は,ハリウッドが以前が主張していた「アナログ端子がある限り,不正コピーはなくならない」との主張に基づくものである。D端子やコンポジット端子をこの世からなくしてしまうための行程表として示したものといえる。具体的には,2011年1月1日以降に製造する機器については,ICTの値に関わらず,アナログ端子にHDTV映像を出力できなくなる。さらに2014年1月1日には,SDTV映像を含めてアナログ端子への映像出力が一切認められなくなる。次世代光ディスクの出力は,すべてHDMI端子などのデジタル出力に集約されることになるわけだ。

 もし本当にこの条項が忠実に履行されれば,HDMI端子を持たないテレビが広く普及してしまった日本では,その影響は計り知れない。日本だけではない。HDMI端子の普及が進んだ米国でも,D端子付きテレビがすでに一部で出回っている。何より,そもそもコンポジット端子やS端子でしか映像を視聴できないテレビも数多い。

 ある家電メーカーの技術者は「ハリウッドは本当に3の条項の履行を本気で求めているのか。ICT機能の導入以上にハードルは高く,消費者や大手小売店が許すとは思えない」と,この条項の有効性には懐疑的な見方を示した。誰もが,ハリウッドの真意,本気度を測りかねている。

【訂正】記事タイトルの掲載当初,D端子への映像出力が全面禁止となる時期を「2013年」としていましたが,2014年の誤りです。お詫びして訂正します。

浅川 直輝=日経エレクトロニクス