花粉症の根治治療に“注射しない”減感作療法 (05/04/14)
http://www.nikkeibp.co.jp/archives/368/368856.html2005年04月07日
花粉症の根治治療、つまり薬を飲まなくても済む程度に症状の軽減が期待できる治療法が、日本でも普及しようとしている。その治療法は「舌下減感作療法」。一足先に普及した欧米では、「サブリンガル・イムノセラピー(SubLingual ImmunoTherapy)」、略してスリット(SLIT)と呼ばれている。日本で決まった呼び名はまだないので、ここでは「スリット減感作療法」としておこう。
「なんだ、減感作療法なんて前からあるじゃないか。友達から聞いたことがあるけど、注射を何度も受けるのが痛くていやなんだって。その友達も途中でやめちゃったよ」――。
いやごもっとも。確かに減感作療法そのものは、花粉症の治療手段として歴史のある治療法だ。花粉症の治療薬である抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などには、副作用として大なり小なり眠気があることから、薬を飲まなくて済むようになることを期待して、例えば受験生などに対して勧められることが多かった。
医療機関の受信も月1回程度に
ところが、今までの減感作療法には大きな弱点があった。抗原となるエキスを注射しなければならないのだ。そのために多いときは、週に2?3回も病医院に通う必要がある。そのうえ注射だから、当然痛い。治療終了までに100回以上も注射するそうで、自分を針山に例える患者さんもいるほどだという。また頻度はきわめて少ないが、アレルギー性の反応が起こって、重い場合はショック状態になる場合もある。これでは、薬をやめたいとは思っても、減感作療法にもなかなか踏み切れないことも事実。実際、日本では減感作療法を受ける人は少なかった。
このような問題点が解決されたのが、スリット減感作療法だ。本治療法では、スギ花粉などの抗原エキスを2分間程度口に含むだけでいい。ちなみに、この方法が「舌下(ぜっか)投与」と呼ばれるため、「舌下減感作療法」と言われるようになった。当然、注射の痛みはないうえ、処方された抗原エキスの服用は患者さんが自宅で行えるので、病医院への受診も月1回程度で済む。
口に含んだだけで注射と同じ効き目があるのかという疑問が生じるが、口の粘膜には免疫機能を担う「樹状細胞」という細胞が多くあり、その細胞の働きなどで同様な効果が期待できるとされている。実際、治療効果は注射による減感作療法とほぼ同等とのことだ。しかも、アレルギー性の反応も注射より軽度で、ショックにまで至ったとの報告は今まで1例もなく、現時点で一番重いものも、じんましんにとどまる。
WHOも花粉症も治療法の1つとして推奨
これならば、もし減感作療法を受けるなら、誰でもスリット減感作療法の方がいいと思うだろう。欧米ではスリット減感作療法が急速に普及し、1998年には世界保健機関(WHO)が花粉症の治療法の1つとして本治療法を推奨したほか、2003年にはコクラン共同研究という、個々の治療法を厳格に評価することで知られる英国のプロジェクトがスリット減感作療法を取り上げ、ポジティブな評価を下した(英文のアブストラクトを、http://www.cochrane.org/cochrane/revabstr/ab002893.htmで閲読可能)。ここ数年は、スリット減感作療法について報告した論文数も急増している(図)。既に欧米では本治療法の評価は確立したといっていい。
日本でも、日本医大や千葉大の耳鼻科などで検討が始まっているが、臨床研究の一環という位置づけなので、いつでも治療希望者を受け入れる状況にはなっていない。そのため国内での普及にはもう少し時間がかかりそうだが、今年4月から、米国においてスリット減感作療法のメッカともなっている施設(アレルギー・アソシエーツ、http://www.allergy-solutions.com/)で同治療法の研修を受けた斉藤正峰医師が、横浜市都筑区のクリニック(http://allergy-slit.webmedipr.jp/)でスリット減感作療法を始めた。
まだ健康保険がきかず自由診療であることがネックだが、本格的な普及に向けた第一歩として注目されている。もちろん日本人の患者さんを対象とした治療成績と安全性の評価が必要であることは論を待たないが、先行する欧米における評価状況をみると、国内でも早期の普及を期待したいところだ。
(高志 昌宏=日経メディカル開発)
さらに詳しく知りたい方は、『花粉症・アレルギーを治す注射しない減感作療法の威力』(斉藤正峰=著、日経メディカル開発、933円+税)をお読みください。同書のお申し込みはこちらから。
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