2010年9月2日木曜日

学歴で差別する企業を見極めるコツ-人事が明かす採用現場の実態

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人事が明かす採用現場での「学歴差別」の実態
学歴で差別する企業を見極めるコツ伝授します!

http://careerzine.jp/article/detail/1325

常見 陽平 [著]
公開:2010/09/02 09:00

タグ:面接 学歴 人事

 リクルート出身、元大手メーカーのカリスマ採用担当者の人材コンサルタント常見陽平が、企業が頭を下げてでも欲しがる人材に成長するヒントをお伝えします。小手先のテクニックに頼るのではなく、流行に左右されずにビジネスパーソンとしての底力、生き抜く力を磨きましょう。【バックナンバーはこちら】

 皆さん、こんにちは。9月10日に最新作『くたばれ!就職氷河期 就活格差を乗り越えろ』(角川SSC新書)を発表します。なぜ、就職難の時代なのか? いわゆる就職氷河期再来ではなく、その正体は就活格差の時代なのだと問題提起しています。なかでも、学歴格差が顕著になってきています。今回はこの問題について、考えてみることにします。

 なお、ここでの学歴差別は、大卒の新卒採用と中途採用を中心にご紹介します。最近では、高校生の就職難、そして学歴差別がより深刻な問題となっていることは私も認識しておりますが、ここでは上記を中心に論じることをご了承ください。

「日大か、無理だな」に象徴される学歴差別
33%の企業はターゲット校を設定している

 今年、ある総合商社を受けた日大の男子学生は面接で、突然こう言われたそうです。
「日大か、無理だな」
彼は結局、落ちてしまいました。面接官は、あえてプライドを傷つける質問をすることによって、彼の反応を見ようとしたのかもしれませんが。

 新卒採用の現場にいると、実は学校差別はますます加速していると感じられます。『HR戦略資料2010』(2010年6月)によると、33%の企業はターゲット校を設定しています。あくまで推測ではありますが、答えづらい質問なので潜在的にはもっといるでしょう。とくにターゲット校を設定していなくても、結果として内定者は上位校だらけということもあります。

 では、ターゲット校を設定した企業が何校にターゲットを絞ったのかを見ると、20校以内が82%、さらには10校以内が58%を占めました。もちろん各企業でターゲット校は違うものの、日本には現在、募集停止中の大学も含めて778校の大学がありますが、採用ターゲットとなっている大学がごく一部であることに愕然とします。

東大アカウントで企業説明会の予約が自由自在?

 企業は採用活動においても、学校群を限定した施策を実施しています。よくあるのが、上位校限定のオープンセミナーです。東一早慶(東大、一橋、早稲田、慶應)に代表される上位校だけを募集対象として、セミナーを実施するのです。

 私が取材した慶大生はある日、突然インフラ系企業から電話がかかってきて「マイページ(応募などの管理を行う画面)にセミナー案内を送ったので来て欲しい」と案内されました。帰宅して、PCを開いてみるとたしかにメールが届いていました。それは公にはホームページの採用情報などには掲載されていませんでした。参加してみると、周りの学生は東大、一橋、早稲田、慶應だらけでした。

 他にもよくあるのが、大学のランクが低ければセミナーの予約が取れないというものです。応募者を管理するデータベースの機能では、学校群ごとにセミナーの参加可能人数を決めることが可能です。漫画喫茶で違う大学の仲間が一緒にセミナー予約をしようとしたら、ある学生は「余裕あり」と表示され、別の学生は「満席」と表示されました。

 都内の私大生はある金融機関のセミナーがいつも満席なので、これはおかしいと思い、東大生のダミーアカウントを作成しました。すると、今までがウソのように予約が楽勝で取れるようになったのでした。もちろん、そのアカウントは使いませんでしたが…。

企業はなぜ学歴差別に走るのか?
とはいえ、高学歴だから有利なわけではない

 では、企業はなぜ学歴差別に走るのか? この要因は根深いです。次のような理由が考えられます。

1.就職ナビなどにより応募しやすくなったこと、求人環境が悪化したことなどから応募者の絶対数が増え、さばききれないので学歴で絞り込むのは効率がよい。

2.大学・学部の数が増え、大学生の数が増えたので、学生の質が多様化。質に対する不安があるため、できるだけ優秀な学生を採りたいと考えている。

3.難関校に合格したことと、大学で学ぶ内容が高度である(と期待されている)こと、周りの仲間に刺激を受けて育ったことを評価する。

4.コンサルタント、教育関係など、仕事をする上で学歴がモノを言う場合がある。

5.これまでの慣例で、高学歴の社員が多かった。

6.上位校の人脈によりビジネス上、有利になる。

7.「うちも東大生が入る会社になった!」というように、社内に刺激を与える。

 特に最近では、1,2の理由が多いと感じられます。

 企業によっては人材の多様性にこだわるため、高学歴者に集中することを恐れている場合もあります。たとえばB to C企業では、生活者の気持ちを理解するために多様な人材を採用するべきという意見が出ますし、なかには「こんなに高学歴に集中していることが知られたら、どうするんだ!」という声すらあります。

 それでは、上位校の学生は果たして有利だと言えるのでしょうか? 何とも言えません。たしかに、初期段階の面接では、学校名で落とされるなどのことがなく有利だと言われていますが、最近ではそれも通りにくくなっていると言われています。偏差値だけが自信の拠り所というガラスのエリートも多数存在します。2011年度新卒採用では、「むしろ上位校の学生がイマイチ」という声も人事担当者からよく聞きました。

 さらにいえば、大学内での学部間格差に悩んでいる方もいます。

「同じ早稲田でも、政経の友人にはリクルーターがついたが、商学部の私にはつかなかった」
「早稲田なのだけど、新設のスポーツ科学部。正直、早稲田内格差が気になる」
「慶應だけどSFC(湘南藤沢キャンパス)。企業はこのキャンパス出身者は世捨て人だらけで使いづらいと思っていないだろうか?」

 社会人の皆さんから見たら、くだらないと思うかもしれません。しかし、実際、学生からこんな相談をよく受けるのです。

中途でも学歴は影響あり 最終選考の決め手となる場合も

 さて、新卒に比べて、スキル、経験がモノを言うと言われている中途採用ですが、ここでも学歴は採用に影響するのでしょうか。結論から言うと、企業によりますが避けて通れない問題です。

 採用担当者は、応募してきた段階で学校名を見る場合もあれば、選考が進んでもまだ極めきれないときに、学歴が決め手の1つになる場合もあります。実際、医療機器メーカーなどでは、「上位校は勉強する内容が難しいので、そこを評価する」という声もありました。

 大手人材紹介会社のキャリアコーディネーターによると、最終面接で接戦となった際の決め手は学歴だったというケースがよくあるそうです。この場合も、新卒の際と同様の7つの理由が関係していると感じられます。

 一方、学歴が有利にならない場合もあります。新卒同様、高学歴者ばかりがそろうと組織が同質化して弱体化する、高学歴者は使いづらいので敬遠するといった具合です。ここは個別企業で見極めていくしかないですね。

学歴で判断する企業か見分けるコツは新卒採用ページのチェック

 中途採用において学歴差別をする企業かどうか。読み解くヒントは、人材紹介会社経由の転職であれば担当のキャリアコーディネーターや営業に質問しておくべきですね。もちろん、人材紹介会社は考慮した上で紹介してきますが。

 使えるテクニックとしては、中途の募集要項ではなく、あえて新卒の募集要項を確認すると良いでしょう。ここには採用実績校などが載っています。自分の出身校をチェックするだけでなく、どのような学校群から採用しているかで学歴差別をする企業なのかが推測できます。もっとも、技術系や一般職などの採用を行なっている企業は、学校群が幅広くなる傾向がありますし、学校ごとの人数の差もあるので一概には言えませんが。

 さらに、社長や役員の出身大学は開示されているケースがあるので、チェックしてみるとよいでしょう。ここも学校群が幅広い場合、特に社長が上位校出身ではない場合は学歴不問採用を行う可能性が高いです。もっとも、逆に「これからは上位校を卒業した人材が欲しい」という方向に走るケースがありますが。高齢の社長ほど学歴にこだわる傾向もあるようです。

高学歴も使いよう 学歴にこだわるイタい人になるな

 学歴差別の話は必ず次のようなループになります。

「採用において学歴差別するなんて許せない」
「東大や早慶にもバカはいる。ウチの部署にいる東大卒は使えない」
「下位校に通っていた人でも優秀な人はいる。◯◯社の◯◯さんは◯◯大学だった(あるいは、大学を出ていない、など)」
「学閥があるから仕方ない」
「学歴差別は効率がいい」
「実力主義で考えると、逆に東大法学部しか残らない」
「そもそも、今の早慶は昔の早慶とは違う」
「とはいえ、Fランク大学(下位校)の学生は使えないからしょうがない」

 理不尽ではありますし、嫌な話なのですが、なぜ学歴差別をするのか、その理由にも注目するべきでしょう。

 製薬会社に内定した津田塾大学の学生は、あるセミナーでこう語りました。

 「学歴差別があることは、私は当然だと思っています。大学に入る難しさも、勉強の中身も違うでしょうから。だけど、上位校以外にもこれから伸びる学生がいることに人事の方は注目して欲しいです」

 学歴は転職する際や、ビジネスをする際に有利に働く部分はもちろんあります。ただ、あくまで入り口のキッカケに過ぎず、実際には取り組んできた仕事の中身、スキル、経験が問われます。学歴をコンプレックスにせず、学歴だけのイタい人にならないようにしたいところです。

 ちなみに、私は一橋大学卒で高学歴だと言われることがあるのですが、正直なところ、得したこともあれば、損したこともあります。たしかに、ビジネスをする上で人脈に助けられたり、本を出す際に信頼を勝ち得たこともありますが、逆に妙な誤解を受けたこともよくあります。「高学歴をコンプレックスに思え!」「一橋ってこんなもんか?」とよく叱られたものです。

 そして、私がプロフィールなどに出身大学名を書くのは、育ててくれた母校への感謝の意味、母校の特に仲間や後輩たちに「こんな生き方をしている人もいる」ということを伝えたいことなどからです。

 仕事における信頼は学歴ではなく、仕事の積み重ねから生まれることは意識したいところですね。次回は学歴差別のより深刻な実態と、その具体的な克服例をご紹介します。お楽しみに!

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著者プロフィール
常見 陽平(ツネミ ヨウヘイ)

株式会社クオリティ・オブ・ライフ チーフプランナー、人事・組織コンサルタント、就職ジャーナリスト。
大学卒業後、株式会社リクルートに入社。とらばーゆ編集部、トヨタ自動車との合弁会社などに在籍。大手メーカーに転職し、新卒採用を担当する。
2009年より現職。企業の採用活動支援、人材育成、大学のキャリア教育支援、就職支援などを手がける。
著書に『就活格差』、『内定を決めたひと言』(中経出版)、『人生を変える朝活!』(青志社)があり、朝日新聞で『就職のススメ』を連載中。
10万部を超える大ヒットとなった『就活のバカヤロー』(石渡嶺司・大沢仁 光文社新書)では企画ブレーン担当を務めた。

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