住民税って何?
http://journal.ocn.ne.jp/kiru/vol07/jyuminzei-1.html所得税に消費税、自動車税に固定資産税、そして住民税……。身の回りに無数にある悩みの種・税金。虎の子の給料を減らす憎い存在だが、特に「よくわからない」という声が多いのが住民税だ。いくさのためにはまず敵を知っておこう。所得税などを納めるのは税務署で、これは国税になる。一方、固定資産税や自動車税、住民税などを収めるのは税務署ではない。これは自治体に納める地方税なのだ。住民税には市町村民税と都道府県民税がある。市町村民税は各市町村、都道府県民税は各都道府県の運営に用いられる税金であり、市町村と都道府県に別々に納めるの? という誤解が出やすいが、ふたつとも市町村に一括して納めることになる。では、住民税がどのように決められるのだろうか。納付する税額は、「所得割」と「均等割」を合計した金額だ。所得割とは前年の1月から12月までの所得に応じて計算される税金。「均等割」は定められた額で一律に課される税金だ。2007年以降の「所得割」は、市町村民税が所得の6%、都道府県民税が所得の4%、合計で10%分を支払うことになる。「均等割」は市町村民税が3000円、都道府県民税が1000円で合計4000円が普通だ。所得の10%+4000円と覚えておこう。
引っ越した場合、元々住んでいた自治体と引っ越し先の自治体両方に住民税を払う必要があるのだろうか。住民税は、その年の1月1日の段階で居住していた自治体から課税される。つまり1月1日現在で居住していた市町村に全額納付し、引っ越し先の自治体に納付するのは翌年からになるのだ。
住民税の内訳
住民税を払わなかったらどうなってしまうのか?
~住民税の使われ方~
近年、不況により自治体の税収が激減していると言われている。私たちの住民税がもしも支払われなくなったら市の運営がどうなってしまうのか、シミュレーションしてみよう。住民税などの市税は、生活保護や介護保険、市立小中学校の運営、市内の設備の整備などに用いられる。少々極端だが、その費用が途絶えてしまったら、学校は機能しなくなり、街灯は灯らず、ゴミ集積場には回収されないままのゴミが溢れかえってしまい、街は荒れ放題になってしまうだろう。もちろん市民サービスは住民税だけが財源というわけではない。しかし私たちが支払う税金の中で最も身近なもののひとつである住民税は決して無視できない財源なのだ。また、住民税をずっと滞納し続けてしまったらどうなるのだろう。実は、恐ろしいことが待っている。滞納が重なると延滞金が加算されてしまう。延滞金は納期限の翌日から納付の日まで年14.6%の利率で計算される。ただし最初1ヶ月は4.7%となっている。最初の1ヶ月間は利率が低いが、2ヶ月目以降は利率が上がってしまうのだ。なるべく早く支払うことが肝心だ。またそれでも支払われない場合、強制徴収される場合もある。特に近年は、家財道具を差し押さえるなど徴収を強化する自治体が増えつつある。自分にどれくらいの税金がかかっているかを理解して、節度を持って家計をやりくり、無理なく税金を支払っていくに越したことはないようだ。
税理士の先生に聞いた! 賢い住民税との付き合い方。
住民税の“落とし穴”とはなんでしょうか?
住民税で困ったことが起きるのは、転職やリストラ、結婚や定年退職などによって、これまで会社員として働いていた人々が退職した翌年です。住民税は前年の所得をもとに計算されます。つまり、平成22年度の住民税は、前年、平成21年分の所得から計算され、失業中(あるいは休職中)などの事情により、平成22年に収入がない状態でも課税されるのです。働いているときや稼ぎがあるときに、税金を取られても納得感がありますよね。仕事を辞めた後、またはなくした後になって、働いていたときの所得をベースにした住民税がかかってくるので、何も知らなければ混乱しますし、もしも蓄えがない場合は大変なことになってしまいます。この住民税の仕組みは意外と知られていません。何故かというと、それは会社員は年末調整を会社に「やってもらえる」という意識があるためです。会社に年末調整をしてもらっても、本人が源泉徴収を読めるとは限らないし、控除など年末調整の際に出す書式の仕組みを明確に説明できる人は少ない。前提として分かっていて当たり前という意識が一般的なので、放置されたまま話が進んでいるのです。だから通知された住民税だけをみて、なぜ? と思ってしまうんですね。
落とし穴にはまりそうになったらどうすればいいのでしょうか?
そこで大切になってくるのが確定申告です。住民税のコワいところは現在の状況に関わらず課税されるだけではありません。特に中途退職者は確定申告をしていない場合、退職した翌年の税金は多めに取られてしまう可能性が出てくるのです。どうすれば損をしていることがわかるのでしょうか。源泉徴収票を見てください。中途退職した方の源泉徴収票は年の初めから退職日までの月々の給与明細を集計しただけのものにすぎません。このデータをもとに住民税が課税されるのですが、このデータには退職後に支払った国民健康保険や国民年金などが反映されていません。それもそのはずで、会社では退職日から後のことは関知していないので、会社が発行した源泉徴収票に記載されることはないのです。保険料などを払っているのであれば、源泉徴収票に記載されている社会保険料控除の金額は正しいとはいえず、もっと多額となり、住民税の計算においても考慮されないままとなります。退職後に支払った保険料などを源泉徴収票に反映させるためにも確定申告をすることが肝心です。控除についても詳しく知っておく必要があります。特に高齢者の方の場合は、寡婦控除(寡夫控除)など課税額に反映されていない控除がある場合もありますから。
住民税の控除一覧
雑損控除 次のいずれか多い額
(1)損失額-総所得金額等×10%
(2)災害関連支出の金額-50,000円
医療費控除
(控除限度額は200万円) 1年間の間に支払った医療費
(保険金等の補てん額を除く)から
総所得金額等 ×5%
(10万円超のときは10万円)
を引いた額
社会保険料控除 1年間の間に支払った額
小規模企業共済等掛金控除 1年間の間に支払った額
生命保険料控除 一般の生命保険料は最高35,000円
個人年金保険料は最高35,000円
地震保険料控除 最高25,000円
障害者控除 本人・配偶者・扶養親族(一人につき)26万円
ただし、特別障害者の場合は30万円
寡婦(夫)控除 所得要件あり。本人が寡婦又は寡夫の場合26万円
ただし、特定の寡婦(前年の合計所得金額が500万円以下
で扶養親族の子がいる場合)は30万円
勤労学生控除(所得要件あり) 本人が勤労学生26万円
配偶者控除(いずれも所得要件あり) (1)一般の配偶者は33万円
ただし、同居特別障害者の場合は56万円
(2)70歳以上の配偶者は38万円
ただし同居特別障害者の場合は61万円
配偶者特別控除(所得要件あり) 最高33万円
扶養控除
(いずれも所得要件あり) (1)一般の扶養親族は33万円
ただし、同居特別障害者の場合は56万円
(2)特定扶養親族(16歳以上23歳未満の扶養親族)は45万円
ただし、同居特別障害者の場合は68万円
(3)70歳以上の扶養親族は38万円
ただし、同居特別障害者の場合は61万円
(4)70歳以上の同居の親等は45万円
ただし、同居特別障害者の場合は68万円
基礎控除 33万円
税金と賢く付き合うためにはどうすればいいのでしょうか?
もしも退職した場合、その翌年には確定申告をしてください。これは対症療法で、人生の中で税金について損をしないためには、常識を疑うことが大切です。別の言い方をすれば税金に対して「ツッコミ」をいれる姿勢を持つことです。例えば税金のルールでよく知られているもので、「年間収入が103万円までなら所得税は無税」というものがあります。でも何故なんでしょう。これは厳密には嘘なのです。103万円まで無税というのは103万円から給与所得控除65万円(パート所得者の場合)を引くと38万円残ります。さらにここから基礎控除38万円を引くと0円になるので、0に何%の税率をかけても0という仕組みなのです(給与所得者にのみあてはまる話で年金生活者にはあてはまりません)。常識とされていることに「ちょっと待って」とツッコミをいれてみることが税金で損をしないためのコツです。
自分の税金がどうなっているかを確認するために、税理士に相談して、転職や結婚、退職など人生の節目節目で自分の税金がどうなっているかを確認することも手段のひとつです。税理士は一般の方にはあまりなじみはありませんが、お医者さんのように考えていただければわかりやすいと思います。病気がないかどうかお医者さんに診てもらうように、税金の具合を診断させてみるのは、税金と付き合う上でとても効果的です。
減税自治体って何?
引っ越しをしたら住民税が高くなった! 住民税が安い自治体に引っ越したい、という訴えを時たま耳にすることがある。住民税の高い自治体と安い自治体があるのだろうか。しかしこれは誤解。住民税は全国一律なのだ。細かな点では一部の自治体では均等割にわずかな課税がある自治体もある。例えば鳥取県の各市町村では「森林環境保全税」がかかり、500円ほど高い。しかし無視できる金額だろう。そんな誤解が生まれる原因として2つの原因が考えられる。ひとつは所得が増加したこと。もうひとつは控除額が減少したことだ。個人の問題であり、自治体が課す税金の問題ではないのだ。しかし、住民税が安い自治体も存在する。それが減税自治体だ。
減税自治体の潮流
2009年4月、愛知県名古屋市の市長選で「市民税10%減税」を公約に掲げる河村たかし前衆議院議員が、約51万票という過去最多の得票数を記録して当選。その他にも愛知県半田市の榊原純夫氏や大阪府和泉市の辻ひろみち氏も同様の公約を掲げて当選している。全国的に「減税自治体」の潮流が高まってきているのだ。ここで浮かび上がってくるのは「住民税って減税できるの?」という疑問。実際に住民税を減税してしまって、自治体の運営に支障はでないのだろうか。またどうして減税することができるのか。自分が住んでいる自治体は減税できないのだろうか。さまざまな疑問を減税自治体・名古屋市にぶつけてみた。
減税自治体ってどうなの? 名古屋市の担当者に聞いてみた!
どうして減税ができるのですか?
この減税は、内部事務における庁舎管理経費などの精査、市の外郭団体への委託料や補助金などの見直し、外郭団体との契約についても競争入札や企画競争など競争性のある企画方式に変更するなど、徹底的な効率性を図ることで実現しました。その結果、個人市民税の場合、本来3000円の均等割から300円を引き2700円、本来6%の所得割から0.6%引き5.4%の課税になります。具体的に減税幅がどのくらいになるかというと、独身かどうか、子供の数や年齢によって異なりますが、給与収入500万円の人は年間10,000円~16,000円程度、給与収入1000万円の人は年間33,000円~40,000円程度となっています。減税するにあたっては介護保険や教育など市民・公共サービスの質が守られることを第一に考えました。試算においても10%減税したことでそれらに問題が生じることはありません。市財政のスマート化もでき、住民税も安くなり、住民の方々に満足していただける改革と考えています。
減税にあたって解決するべき課題はあるのでしょうか?
現在のところ、10%減税は平成22年度のみの措置となっており、恒久的な減税のために減税継続の審議を行っています。恒久的な減税が決定した場合、市の運営にかかるコストのさらなる効率化が求められます。また、市議会の議論においても住民税10%減税により、「深刻な財源不足や市民サービスに重大な被害を及ぼす懸念があるのではないか」という指摘がありました。慎重な試算とコスト削減による財源確保を行っているのでその心配はありませんが、市民の方々に安心感をいただいていただくためにも減税の仕組みを公開し、理解を求めていく姿勢は必要になってくるでしょう。
他の市町村でも減税はできるのでしょうか?
名古屋市だからできた、というわけではありません。10%減税は、現在の市長が選挙に挑む際に公約として掲げたものですが、市長が当選するまでは市政に減税という発想はありませんでした。つまり、制度的にできるかできないか、という問題ではなく、減税が最高の市民サービスであるということを訴えた市長の意欲が原動力になったと考えております。名古屋市としても、この減税については今年始まったばかりなので、市民の方々の満足度は分かりません。未知数な部分がありますが、今後も最高の市民サービスを提供するために邁進していく所存です。市民の皆様からすれば税金は安い方が喜んでいただけるのは事実。今回は名古屋市が減税を実施した結果、報道各社にも多数取り上げていただきました。減税自治体に対する関心は高まっていると実感しています。
住民税0自治体、杉並区
しかし驚く無かれ、自治体の中には住民税0をめざす、驚くべき構想を打ち立てているものもある。東京都杉並区だ。はたしてそんなことが可能なのだろうか。その方法は、年間予算の一部を積み立てに回し、財政のダムを築くことで、安定した区財政を実現するというもの。杉並区の年間予算額は約1500億円。その1割にあたる150億円を毎年積み立て、1.5%の金利で運用していくことで、将来的には住民税0を実現するというのだ。恩恵は住民の負担が減るだけではない。実現すれば高齢化や公共施設の建て替えなどの行政需要にも自治体は無理なく対応できるようになり、より安定した公共サービスを期待できるのだ。積立金の運用がうまくいくまでは本来の9割の予算で公共サービスが行われる。となると問題が起きるのではないかとも思われる。しかし08年度の日経新聞の自治体ランキングでは行政サービス度は全国12位と非常に高い水準を維持した。では急いで移住!……と言いたいところだが、残念ながらそうとも言い切れないのだ。積立金の運用が順調にいっても、実際に住民税が0になるのは78年後。さらに2010年7月の区長選で区長が交代し、住民税0自治体の構想自体が「今後どうなるかはっきりとしたコメントをだせない」(杉並区職員)とのことだ。夢の住民税0自治体、その実現を祈りたい。
減税自治体構想
住民税は私たちが豊かに暮らすための住民サービスのための大切な資金。不況で懐具合はさびしいけれど、ひとつみんなで助け合って、自治体を盛り上げていきたいものだ。
取材:小神野 真弘(OCNジャーナル編集部)
取材協力:田中卓也(田中卓也税理士事務所)、名古屋市財政課・税制課