文中でB-CAS廃止の方向となっており事実なのだが、権利者側は規制を廃止するつもりはない
B-CASカードを廃止する勧告が出たのでカードは廃止するが、制限のかけ方をソフトウェアに変えアナログ時代の利便性には戻さないと公表している
権利者団体はカードを廃止するが制限や規制をやめるとは一切言っていない
池田信夫の「サイバーリバタリアン」
http://monthly.ascii.jp/elem/000/000/148/148726/
第24回 ダビング10 そもそもおかしい6つの疑問
2008年07月08日 11時00分更新
文● 池田信夫/経済学者
ダビング10に対応するため、各レコーダーのアップデートが始まった(写真はソニーの「BDZ-X90」)
7月4日から「ダビング10」が始まった(関連記事)。その不合理な仕組みについては、本誌を始めいろいろなメディアで批判されているが、なぜこんな変なシステムが続けられるのかについては、あまり疑問をもたない人が多い。私はコピーワンスが始まる前からの経緯を知っているので、ダビング10について6つの疑問を改めて書いておこう。
1.ダビング10とB-CASは一体なのか?
かつて放送局は一体だと説明していたが、この嘘は「Friio」(フリーオ)の登場でばれてしまった。ダビング10は、放送波に「n回目」というフラグと呼ばれる信号をつけ、それをコピーした機器がフラグを認識して「n+1回目」と書き換えるだけなので、B-CASの暗号化システムとは別である。
だからフリーオのように、B-CASの出力信号に付いているフラグを無視してHDDに書き込めば、外すことができる。実はフリーオだけではなく、「画像安定装置」として売られている機器にも同様の機能がある。これらはまだコピーワンスにしか対応していないが、そのうちダビング10対応機が出てくるだろう。
2.コピー制御を外すのは違法ではないか?
著作権法(第30条2項)では、「技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変」を禁じている。しかしフリーオは、コピー制御フラグを除去も改変もしないで、単に無視する無反応機なので、違法ではない。もし無反応機を違法にすると、ダビング10の信号を認識しない昨年秋以前に製造されたテレビは、違法ということになってしまう。
3.ダビング10は電機メーカーの義務なのか?
B-CASシステムを実現する「B-CASカード」
ダビング10は、法的根拠のないARIB(電波産業会)の私的な規格にすぎないので、電機メーカーがそれに対応する義務はない。それどころか米国では、すべての無線機がbroadcast flagを認識することを義務づけようとしたFCC(連邦通信委員会)の決定が、裁判で違法とされた。スウェーデンのデジタル放送の受信制御システムも、欧州委員会によってEU指令違反とされた。
義務でもないダビング10にメーカーが対応しているのは、放送波がスクランブル化され、ダビング10に対応しない受信機にはB-CAS社がスクランブルを解除する暗号鍵を配布しないからだ。このため、電機メーカーはダビング10に対応せざるを得ない。B-CASは無料放送に必要のない暗号をかけて参入を制限するもので、独占禁止法(第3条)に違反する疑いがある。
4.なぜコピー制御が始まったのか?
もともと総務省令では、放送波にスクランブルをかけることは「有料放送」に限定されていた。ところが2002年2月に、情報通信審議会の「サーバー型放送システム委員会」で、なぜかコピーワンスの導入が決まった。
このとき、コピーワンスのフラグだけでは無反応機に対応できないので、そのエンフォースメント(強制)の手段としてB-CASと抱き合わせにすることが決まった。コピー制御信号も一緒にスクランブル化すれば、その暗号の鍵がないと受信できないからだ。つまりコピー制御をメーカーに強制するために、B-CASを抱き合わせにしたのだ。
5.公共放送のNHKがなぜコピー制御をしているのか?
世界の公共放送局に、受信制限やコピー制御をしている局はない。NHKの受信料も、すべての視聴者から(見ても見なくても)徴収するものだ。ところがBSデジタル放送では、受信料を払っていない者は見るなという意味の受信確認メッセージが出る。これはWOWOWやスカパー!と同じ有料放送で、見なければ払わなくてもいいことになり、NHKが不払い者に対して「見ていなくても受信料を払え」と訴訟を起している論理と矛盾する。
放送法第9条9項は、NHKは「無線用機器の製造業者、販売業者及び修理業者の行う業務を規律し、又はこれに干渉するような行為をしてはならない」と定めている。視聴者が私的複製できないような規格をメーカーに強制することは、この「干渉」にあたり、違法の疑いが強い。「コンプライアンス」体制を強化したNHKは、この業務の根幹にかかわる違法行為の疑惑についてどう答えるのだろうか。
6.今後ダビング10はどうなるのか?
ここまで見たように、ダビング10もB-CASも違法の疑いが強い。総務省は、これが2011年の地デジ完全移行のために安価な「5000円チューナー」を作る障害になるため、廃止したいと考えており、情報通信審議会もB-CASの見直しを決めた。公取委も、独禁法違反の容疑について関心を持っている。B-CASが廃止されると、ダビング10を強制することはできなくなるので、どちらももそう遠くない将来になくなるだろう。テレビを買うのは、それからでも遅くない。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「過剰と破壊の経済学」(アスキー)、「情報技術と組織のアーキテクチャ」(NTT出版)、「電波利権」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。