連載
問われるコーチング力:
リーダーが抱える20の悪い癖
http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/0811/05/news007.html元GE会長のジャック・ウェルチ氏をコーチした経験を持つエグゼクティブコーチングの第一人者によると、組織の上に立つリーダーは共通した悪い癖を抱えているという。
2008年11月05日 07時30分 更新
細川馨(ビジネスコーチ),ITmedia
「問われるコーチング力」バックナンバーはこちら
前回、自己分析によりリーダーは自分の強みと弱みを把握すべきだと述べた。今回はリーダーが陥りやすい「20の悪癖」について紹介したい。
以前「偽装事件を引き起こす不健康組織16の兆候」のコラムでも触れたが、リーダーの自己変革に欠かせないので改めて説明する。20の悪癖とはジャック・ウェルチ元GE会長をコーチした、コーチングの第一人者であるマーシャル・ゴールドスミス氏が、著書『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』で指摘したものである。経営者やリーダーの多くは次のような悪癖を持っていて、それが職場に悪い影響を与えているという。
1. 極度の負けず嫌い
2. 何かひと言価値を付け加えようとする
3. 善しあしの判断を下す
4. 人を傷つける破壊的なコメントをする
5. 「いや」「しかし」「でも」で話を始める
6. 自分がいかに賢いかを話す
7. 腹を立てている時に話す
8. 否定、もしくは「うまくいくわけないよ。その理由はね」と言う
9. 情報を教えない
10. きちんと他人を認めない
11. 他人の手柄を横取りする
12. 言い訳をする
13. 過去にしがみつく
14. えこひいきする
15. すまなかったという気持ちを表さない
16. 人の話を聞かない
17. 感謝の気持ちを表さない
18. 八つ当たりする
19. 責任回避する
20. 「わたしはこうなんだ」と言いすぎる
リーダーは他人よりも優れていると考えがち
あなたが当てはまると思ったものはあるだろうか?
経営者やリーダーは、負けず嫌いで上昇志向が強い傾向がある。もちろんある程度は必要なのだが、それが強すぎると問題になる。彼らは組織の中で相応の成果を残し、評価され、現在のポジションに就いた成功者である。よって、自分は優秀で頭がよく、ほかの人よりも優れていると考えてしまいがちである。
しかし、もし本当に頭がよく優れているリーダーであれば、部下や周囲の人をうまく巻き込み、彼らと一緒に成長し、それに伴って組織も成長していくはずである。単なる思い込みで実は頭が悪いリーダーというのは、人を見下しばかにする。「自分は頭がいい」「優秀である」ということを必要以上に誇示するため、他人とうまくいかなくなる。
これは以前紹介した「思考の枠」を持っている人である。「頭がいい」、「優れている」ということを主張し続ける。他人に負けたくないという意識が強く、部下とささいなこと、くだらないことで競争する。自分が見下している部下を信頼しなくなり、部下の意見に耳を貸さなくなる。
こうなると、次のような弊害が生まれる。
1. 自分に情報が入ってこなくなる
2. 正しい判断ができなくなる
3. 部下との信頼関係が壊れる
欧米の経営者は新幹線の運転手?
1|2 次のページへ
過度の負けず嫌いは危険
組織の運営も非常にぎくしゃくし、自身の判断ミスで会社をつぶす可能性も出てくる。経営破綻した米Lehman Brothersのリチャード・ファルドCEO(最高経営責任者)に対して助言した人はいただろう。不動産取引に偏り過ぎていて、危険ではないかと警鐘を鳴らした人もいたはずである。しかし、その話は彼にきちんと届いていただろうか? あるいは、彼はその言葉に耳を傾けただろうか?
20の悪癖は、「自分は正しい」「人に負けたくない」といった思考の枠に起因するものが大半だ。人に負けたくないので、ひと言価値を付け加えようとする。自分が正しい、優秀だと思うので、人に対して勝手に善しあしの判断を下し、傷つける破壊的なコメントをするのである。
人として人物評価されることほど屈辱的なことはない。上司から「お前はこういう人間だ」と決めつけられた部下はどういう気持ちになるだろうか? 心の中で思うことはあるかもしれないが、口に出すのはもってのほかである。好ましく思ってない人に「あいつはこういう人だ」と陰で言われているとしたら、煮えくり返る思いにならないだろうか。破壊的なことを言う根底にあるのは、負けたくないという意識や、常に欲求が満たされない不安があるからだ。
負けたくない、欲求が満たされない → 不安 → 人に破壊的なことを言う
欧米企業の経営者たちは、時速300キロで走る新幹線の運転手のような印象を受ける。日本企業に比べると、彼らは短期間で結果を求められることが多く、毎月、3カ月ごと、半年ごと、1年ごとに査定され評価を下される。常に欲求が満たされないので、言葉が荒くなりがちで人を傷つけてしまう。きちんと他人を認めることもできなくなる。
もちろん短い期間で結果を出すことも大切だが、ある程度の時間をかけて成果を残すことも必要である。米国のウォールストリートで起きた金融危機は、全員が短期的な利益を求め過ぎた結果、このような事態に陥ったのである。じっくり育てるといった経営の大切さが見直されていくだろう。
自分を見つめる鏡を手に入れろ
20の悪癖のうち、当てはまるものがいくつあっただろうか? 自分では客観的に見られないこともあるので、周囲の人に聞いてみるといい。ただし、全員の意見をうのみにする必要はない。10人中8人が問題だと指摘すれば当てはまる。10人中2人ならば気にする必要はない。
悪癖を一度にすべて直すことは不可能である。まずは1つか2つに焦点を絞り、それを意識して行動してほしい。それだけでも、自分自身や周りに大きな変化が現れるはずである。
もう一点強調したいのが、リーダーは自分を見つめる鏡を持ってほしいということだ。自分の顔や姿は、毎朝鏡で見て確認するはずである。「今日は顔色がいい」、「今日は疲れているな」などと自分を見て考える。自分の行動についても、振り返る癖を持つ必要がある。行動の「鏡」を持ち、毎日鏡に映る自分を確認する。それを意識し少しずつ悪癖の改善に努める。それが行動変革につながっていくのだ。
プロフィール
細川馨(ほそかわ かおる)
ビジネスコーチ株式会社代表取締役
外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。