2009年9月17日木曜日

色覚異常(色弱)を遺伝子注入で治療-わずか1週間で

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サルの色覚異常、遺伝子注入で治癒

Christine Dell'Amore
for National Geographic News
September 17, 2009

 新たな研究により、サルの色覚異常が簡単な細胞注入で治ることが確認された。人間の視覚も遺伝子治療で改善するのか、将来的な研究にゴーサインが出たかたちだ。研究を行ったジェイ・ナイツ氏は、「夢の治療法だ。あらゆる種類の眼疾患に効果があるかもしれない」と話している。
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http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article_enlarge.php?file_id=53174378
 赤緑色覚異常の治療を受けたリスザルの“ドルトン”が、果物や野菜のごちそうにありついている。デジタル処理で色が変わっている左の写真は、色覚異常者が見る光景を再現したものだ。

 2009年9月に発表された研究によると、このドルトンを含めた2匹のリスザルの色覚異常が簡単な細胞注入により改善したという。人間の眼疾患を遺伝子治療で治せるのか、将来的な研究にゴーサインが出たかたちだ。
Photograph courtesy Neitz Laboratory
 色覚異常の中で一番多いのは赤と緑の区別が付かない赤緑色覚異常だが、それもこの方法で治せるのだろうか。いまの段階でそれを明言するのは時期尚早だが、ナイツ氏は自信をのぞかせている。

「現段階でも、まったく同じ治療法で人間の色覚異常を治せるはずだ」と同氏は言う。眼科医であるナイツ氏は、アメリカ、ワシントン州シアトルにあるワシントン大学で教鞭を執っている。

 色覚異常は人間に最も多い遺伝病だ。ナイツ氏によると、発症者の数はアメリカで約350万人、中国では1300万人以上、インドでは約1600万人に上るという。患者は男性の方が圧倒的に多く、この症状を抱えていてもほとんどの目の機能に問題はない。

「しかし、地質学の研究や航空業界など、正常な色覚が要求される仕事に就くことができず、精神的に苦しんでいる人がいるのも事実だ。日常生活では、秋の紅葉や夕焼けを十分に楽しめないほか、体の日焼け具合を自分で確認できないという問題もある」とナイツ氏は説明する。

 色覚異常は人間だけの病気ではなく、一部のリスザルもまったく同じ症状を抱えている。色素遺伝子の欠損により、赤と緑の区別が付かないのだという。ナイツ氏の研究チームはリスザルのこの性質を利用して、色覚異常に対する遺伝子治療の有効性を調べた。色覚異常の個体と正常な個体を研究室に集め、研究のために訓練したのである。

 灰色の点がちりばめられたタッチスクリーンをリスザルに見せ、ときどき点の色を変えてみる。合図音に合わせて、リスザルは色の変化した点にタッチするという段取りだ。正しくタッチできた場合は、褒美としてグレープジュースが与えられた。

「しかし点が赤か緑に変化した場合、色覚異常のリスザルは必ずいら立ちをあらわにし、スクリーンを揺さぶることさえあった」とナイツ氏は言う。

 タッチスクリーンのテストを一通り終えた後、研究チームは色覚異常のある2匹の網膜の裏側に赤に反応する錐体細胞を注入した。錐体細胞は、光と色に反応する視細胞の一種である。

 9月17日に「Nature」誌で発表された研究論文によると、それら2匹のリスザルは1週間以内に赤と緑を識別できるようになったという。

 マサチューセッツ州にあるウェルズリー大学の視覚神経生物学者で色覚の専門家のベビル・コンウェイ氏はこの研究を受けて、「色覚異常のあったリスザルたちはこの変化に大いに喜んだはずだ。生い茂った緑葉の中から果実を見つけられるようになったのだから」とコメントしている。

 人間の色覚は、数百万個に及ぶ特殊な神経細胞の集合体に支えられている。そしてそれらの神経細胞は、成人になると比較的柔軟性がなくなるものだと昔から考えられてきた。このためコンウェイ氏は、たった1度の遺伝子治療で色覚異常を治せることに驚きを隠せないようだ。同氏は当初、この研究に否定的な立場を取っていたという。

「純粋に進化の観点から言えば、視覚の神経回路をすべて正常に戻すことは難しいに違いない。しかし小さなスイッチを1つ切り替えればそれが可能であることを、研究チームはおおむね証明した」と同氏は高く評価する。

「今回の研究で、成人の脳は既存構造のままで新しいシステムに順応できることが明らかになった。脳研究の前提条件の一部は再考しなければならないだろう」と研究チームのナイツ氏は述べている。そして同氏は次のように話を続けた。「脳は意外に柔軟性が高く、その能力は計り知れない。不可能とされていた治療が今後は実践されるようになるはずだ」。

Photograph courtesy Neitz Laboratory

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