2008年9月24日水曜日

【解雇】会社の手口、やり方。~対処法~

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【第39回】解雇になりそうな気配です… ~まずは、会社の「手口」を押えよう!~

http://business.nikkeibp.co.jp/article/nba/20080922/171358/

2008年9月24日 水曜日 吉田典史

読者からの“タレコミ”

 社長から「解雇だ!」とか「辞めろ!」と言われます。前々から関係が良くなかったのですが、仕事で大きなミスはしていません。解雇になったらどうすればいいのでしょうか。今のうちから会社との争い方を知っておきたいのです。教えてください。


人事ジャーナリストが返信

 解雇ですか…。仮に事実であるならば、最悪ですね。でも、正式に決まったわけではないようなので、まずは落ち着きましょう。

 まず、私のスタンスをはっきりさせると、会社と争うことは好ましい行為とはとても思えません。会社と争うのはデメリットがあまりに大きい、と労使紛争を取材していていつも感じるからです。

 何よりも、訴える社員の側が精神的なエネルギーを使い込むことが懸念されます。解雇にしろ、退職強要にしろ、セクハラにしろ、訴える人は職場で孤立無援の闘いになりがちです。孤独の中でどれだけ争いを続けることができるか、率直なところ私は懐疑的にならざるを得ません。

 10年程前、労働組合・全労連の執行委員が、「会社を裁判に訴えた社員は、2審あたりで精神的にもたなくなる場合が少なくない。はじめは血気盛んだが、次第に意気消沈していく。会社は、それくらい強いんだよ」と話していたことを思い起こします。

 全労連は、労働組合の中では筋の通った活動をしていると私は認識しています。少なくとも、一部の組合よりははるかに信用できます。

 一部の組合とは、連載36回で紹介したような、組合員がトラブルに巻き込まれても、役員が「当事者間で話し合ってほしい」という立場を取る「名ばかり労働組合」を意味します。

 全労連のような労働組合であっても、会社を訴える社員を完全に守ることができない場合もあるのです。結局は、その社員はギブアップしていかざるを得なくなったりします。そういったことを心得えておくべきでしょう。

 それでも、どうしても会社と「決着」をつける考えならば、私の実体験や取材でつかんだ情報をもとにした戦略的に争う方法を参考にしてみてください。

 まず大前提として、あなたは争うことで何を求めるのか、その目標を明確にしましょう。時おり、ひたすら感情論のみで会社を批判するものの、目標があいまいな人がいます。取材をしていると、実はこのタイプが相当多いのです。これは好ましくありません。

 仮に、あなたが会社から「解雇」を受けたとします。その場合、少なくとも次のような目標が挙げられると思います。

1、解雇は受け入れない。全面的に争うことで解雇を撤回させる。そして、その後も今まで通り職場に残り働き続ける。

2、解雇は“条件次第”で受け入れる。例えば、会社側に退職金に少しでもお金を上乗せさせたうえで辞める「条件退職」に変更させる。

3、解雇をすんなりと受け入れる。解雇通知をもらい、そのままおとなしく辞める。

 解雇に限らず、退職を強く迫られる退職強要やセクハラであっても、概ね、上記の1~3のいずれかになるのではないかと私は思います。

 結論から言えば、私は1の選択肢を選ぶのは得策ではないと思います。私が仮に当事者であるならば、2の選択肢を選びます。

 今の労働法や民法の下では、会社が正社員を解雇するのは相当難しい試みです。余程のことがない限り、会社は「普通解雇」を適用することはできません。ちなみに、解雇には3つの種類があることは、この連載で何度か述べてきた通りです。

 中小企業やベンチャー企業を取材すると、若い経営者が“オフレコ”(記事にしないことを前提に話すこと)として、「この前、あの社員を解雇にした」と言い切る時があります。私はその状況を完全には把握していませんが、どうも「不当解雇」の可能性があるように思えて仕方がありません。

 1を選んだ人が、「(解雇を)受け入れたくない」という思いはよく分かります。しかし、会社と全面的に争うのは前述したように精神的なエネルギーの浪費になり、その後の人生を考えると私にはどうしても得策だとは思えないのです。

 さらに、東京・四谷駅近辺にある労働者側の法律事務所に勤務する弁護士が以前話していたことですが、「会社と本格的に争うと同じ業界の会社には転職が難しくなる可能性がある」ことも記憶に留めるべきでしょう。

 これは、争ったことが噂で伝わったり、転職の試験を受ける会社に前歴紹介などで調べられた時に分かってしまうことを言わんとしているのでしょう。

 そして仮に会社が解雇を撤回したとして、果してその後もすんなりとこれまで通りに働くことが本当にできるのでしょうか。私は、懐疑的です。

 裁判などで会社を訴えた人が解雇を撤回させ、「現状復帰」として職場に戻っても、周囲の人はまずその人に近寄らないでしょう。法律の世界で会社を打ち負かしたしても、人間の心を変えることが難しい以上、その後も無視され続けることがあり得ると私は考えます。それが人間の性です。

 裁判で争い、職場に戻った人を3人(金融機関、航空会社、建設会社勤務)取材したことがあります。いずれも数年以内に退職しています。そのうちの1人に辞めた理由を尋ねると、「(精神的に)疲れた」と答えていました。

 これは私の見解ですが、会社は争った社員をほかの社員と同じような扱いで社内に残すかと言えば、「NO」の可能性の方が高いと思います。

 他の社員と同じく、一定のペースで昇進させていくことはないと思います。そうした人を取材で見たことがないのです。きっと手を変え品を変え、巧妙に自主退職に追い込んでくるに違いありません。

 では、選択肢3の「解雇をすんなりと受け入れる」を選ぶのはどうでしょうか。これは、本当に自分に非があるならば、受け入れるべきなのかもしれません。ただし、この場合の非とは、あくまで解雇に相当する非であり、少々のミスではありません。

 例えば、会社の多額のお金を無断で持ち出して使い込んだならば、それは受け入れざるを得ないかもしれませんが、「職務遂行能力が低い」くらいでは、会社はなかなか解雇通知を出すことはできないものなのです。つまり、解雇に相当するミスとは言えません。

 それでも会社が解雇にしてきたならば、あなたは「なぜなのか?」と自問自答する必要があります。私が東京都の労政事務所(現 労働相談センター)の相談員から聞いて印象に残っている言葉があります。それは、「正社員でありながら解雇される人は、以前から“無抵抗な奴”としてなめられていた節がある」という言葉です。

 つまり、会社側からすると、解雇通知を出しても「あいつは何も抵抗しないだろう」と思われているのです。

 「なめられない」ための対策の1つには、日々の仕事において、理不尽な扱いを受ける時などに、冷静に「これはどういう意味なのでしょうか」などと意見を言うことです。感情論はいつもタブーです。

 自分の意思は、日頃から上手く伝えることを習慣づけることをお勧めします。ささいなことですが、職場を観察すると実はできていない人のほうが多いように私には映ります。

 その積み重ねがイザという時に、自分の身を守る「保険」になります。職場は戦場。いついかなる時も、なめられてはいけません。「あいつは黙っていないぞ」という意識を上司や周囲に上手く意識化させていくべきです。

 なお解雇通知ですが、時折小さな会社では、経営者が「お前は解雇だ!」という場合があります。これは、どうもうさん臭い。本当に解雇ならば、きちんと解雇通知を出すべきです。

 そして、少なくとも、解雇通知には「解雇の種類、解雇の事由(理由)、日にち、会社の社印」などが書かれてあることが必要です。会社が出さないならば、あなたはしつこく迫りましょう。中小企業やベンチャー企業の中には、一向に出そうとしない会社もあります。

 経営者は自らにやましい覚えがないならば(正当な解雇と思っているならば)、解雇通知を発行できるはずです。仮に、経営者が「忙しいから発行できない」などと口にしたら、それはまったくの嘘。今は解雇通知はインターネットで簡単にダウンロードができるのですから。

 そうした経営者は、恐らく意図的に解雇通知を出さないのでしょう。解雇にすると、会社が負ける可能性があります。それを警戒しているものと思われます。

 あなたに「解雇だ!」と脅して、「もうこの会社では無理だ」と意気消沈させ、辞表が出てくるのを密かに待っている可能性が高いはず。あくどい経営者のこの巧妙なレトリックは、ぜひとも覚えておきましょう。

 あなたが辞表を出せば、それは解雇でなく自主退職です。つまり、会社が仮に訴えられたりした時に、「本人の自発的な意思で辞めた」と言い逃れをすることができます。

 前回や前々回で紹介したような東京労働局のような第三者機関に調停で事実確認をされたとしても、経営者は辞表を見せて、「本人がどうしても辞めたいと言うものですから…」と一定の言い訳ができます。

 「会社は、解雇通知は出したくない。辞表が欲しくて仕方がない」。会社のこの本音は、いつも忘れないでください。

 さて、前述の選択肢2の「条件退職」ですが、私が当事者であるならばこれを選ぶと思います。ただし、この選択肢を選ぶ場合、思い描いた通りに進むとは限らないことをあらかじめ述べておきます。

 会社からすると、解雇を撤回して「条件退職」を受け入れることは、とらえ方によっては「敗北」と言えなくもありません。

 プライドが高く、虚栄心の強い経営者(経営者はこの手のタイプが多いと私は思っている)からすると、屈辱的な思いでしょう。だから、「条件退職」にさせることは、一筋縄では進まない可能性があります。

 では、会社側に「条件退職」にさせるためには、どうすればいいのでしょうか。結論から言えば、各都道府県にある労働局、労政事務所、弁護士、労働組合などの第三者の力を借りるしか方法はないと私は考えます。

 解雇になった社員が経営者や人事部に行って、「解雇ではなく、条件退職にしてください」と交渉しても相手にされないと思います。

 仮に、そのくらいであっさりと「条件退職」にするような会社であるならば、争う値打ちはないと思います。あまりにもずさんな人事が行われています。人事評価や人材育成などは相当レベルが低いはず。未来がある会社にはとても思えません。

 1人では交渉が難しい場合には、上記の第三者のうちどれかを選び、そこにまずは相談に行くべきです。その前に、それぞれの特徴を押えておきましょう。

労働局……案件はセクハラなどの問題が多い。国家公務員が相談員となる。相談料は無料。

労政事務所……解雇、賃金不払い、退職強要、セクハラなどの相談が多い。地方公務員が相談員となる。相談料は無料。

労働組合……会社の中にある「企業内組合」と、外にある「外部組合」に分けられる。いずれもその役割は、労働者の権利や人権などを守ることではあるが、実際は、意識の面で相当な隔たりがある。相談料は無料。

弁護士……労働側の弁護士は、基本的には労働者の権利を守る。相談料は通常、30分で5000円、1時間で1万円。その場で支払う。

 これらを押さえたうえで、それぞれにどのようなアプローチをすればいいのか、そして効果的な組み合わせを次回に紹介します。

 トラブルに巻き込まれていない人も、万が一に備えてぜひ読んでください。「条件退職」にする奥の手は必ずあります。会社は強いものですが、意外と弱さも持っているものです。