2010年12月22日
第80回 有名家電量販店との取引は「握る」チカラで決まる
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101220/1029225/島川言成
PCはどんな店員から購入したいか? 友人や知人に質すと、「商品知識が豊富な店員」を支持するヒトが最も多かった。小生は、家電量販店や専門店を訪れて、店員スキルを個人的に計測するときがある。「ネットブックでオーディオを楽しむ方法はないですかねぇ?」などと店員に質問したりする。ネットブック売場やノートPC売場に立つのは、最近、WiMAX機器を売りたい派遣店員が目立つ。だから、「東芝がサウンド機能を強化したネットブックを発売しました」と即答してくれることは、まずない。ケゲンな回答が大半だ。「お客様、ネットブックでオーディオなんて無理ですよ」「あっ、そうなんですか?」「はい、サウンドカードを搭載した高級ノートパソコンか、デスクトップパソコンをお買い求めください」と答えられた。
この店員は、まだマシだ。「少々お待ちくださいませ」と話して、その場から去り、上長らしき店員と何事か話し合い、「お待たせしました。ソレはオーディオ売場でお問い合わせくださいませ」。有名家電量販店で急増中なのが、この手の他人任せ型店員だ。プライスカードに記載してあること以外の商品知識はゼロ! 旧知店員に問えば、「まだまだ増えますよ。ウエ(経営陣)のほうは正社員は必要最低限にしろ。非正規雇用店員の頭数を増やせと命じる時代です」だそうだ。「そんな店員ばかりになったら、ヒト型販売ロボットだね」と突っ込むも、彼は苦笑いしながら抗った。
「ソレは百も承知なんですよ。売場管理ができる正社員が一人いれば、残りはプライスカードを読み間違えず、計算間違いしなければ、構わないと考えていますから」。そういえば、有名家電量販店の周辺機器売場の店員に質問したとき、「パッケージの裏面をお読みください。記載事項の範囲で使えますので…」と説明されたことがあった。言葉遣いは丁寧でも、質が伴わぬ言葉ではないか。日本のサービスは懇切丁寧で、店員スキルは世界一なんて、こんな体験をしては、恥ずかしくて書けない。以前は商品知識を養成する研修を繰り返したものだが、現在は外部のヒトを売場に立たせ、正社員は彼らの行動を監視することに勤しむようになっている。
もっとも、こんな状況に陥ったのは、インターネットの影響が大きそうだ。ネット売買に慣れたヒトが多くなり、商品知識の意味が変質したのだ。メーカーが発する専門知識を、店員とお客様が共有するようになっている。結果、両者の商品知識に大差がなくなってしまった。PCは専門知識を持つ店員が販売するモノという時代は終焉を迎えた。マニアックな店員が働いている自作PC店を除外したなら、お客様の商品知識の方がウエかも知れない。否、自腹でPCを購入する動機を考慮すれば、購入側の選択眼の方が勝っているのでは。そんな状況に日本の景気悪化が重なっている。メーカーサイトを見れば、純粋なメーカーは消滅したと分かる。メーカーは製販ネットショップ兼業業者を意味すると分かる。
メーカーは販売店のご機嫌取りになった
メーカーはショップから注文された商品を、物流会社を使って納品している。“作る”のはメーカー、“売る”のはショップという棲み分けも、POSシステムが普及してからの有力店は、“売る”ことも要求する組織に変質した。メーカー側が拒絶すれば、「対応してくれる会社は他にもありますから」と取引停止を匂わせる。結果、売上高は販売スタッフを派遣できる力量で決まるようになる。過去、納品書に確認印を押してもらえば、メーカーの売上高が増えていた。現在は、売れない商品は、ソレを作った側に責任を転嫁する。有力家電量販店の商売は、さらにエグく、売場を貸し出すから、後はアンタらが責任を持て! 売れぬ商品は不要とショップから宣言される前に、「ポイント率を上げます」と顔色まで伺う。
かくてメーカーは販売店のご機嫌取りになった。売場内の好位置の提供やポイント還元における好条件は当然。別立てのリベートを用意する必要も生じる。「話題の新製品ですから、アソコに山積み展示をお願いしたいのですが」とエスカレーターの真ん前の位置取りを要望すれば、「アソコは別のメーカーからも依頼があってねぇ」と計算高い。有名家電量販店は、当然、リベート金額が高い側を採用する。アキバでは、こうした行為を「握る」と話す。高崎・新宿・池袋などでの本部商談は、「握る」が前提にある。アキバもそうだが、地域一番店で、売りやすそうな・目立ちそうな場所の陳列商品は、販売員まで含めて、握った結果と考えられるのだ。
かつて懇意にしていたソフト会社の部長は、「○○さんや××さんと取引すると、リベートで利益が飛ぶときがありますよ」と有名家電量販店の実名を出した。「コレ(実名)は書かないでくださいよ」と懇願されたから割愛するが、まっ、どなたでもご存知の家電量販店だ。年末年始の最大商戦前になると、商品陳列の様子を見て、「いくらで握ったんだ?」という疑心暗鬼が、日本中を飛び交っている。ちなみに好位置の山積み陳列は、占有日数に応じた地代を支払う仕組みとなっている。このあたりは広告代理店と考え方が同じ。駅前一等地の広告看板の利用料金は値段が高くて当然だ!
リベートを支払えないような、設立間もない小規模メーカーは、強欲家電量販店と取引できるのか? 飛ぶ鳥落とすような勢いの爆発的なヒット商品があるならば、ソレは可能だろう。しかし、大半は慇懃無礼な態度で、「取引には応じられません」と回答されるはずだ。PC周辺機器だとしたら、量販店と取引中の代理店を紹介してもらえるかも知れないが、ココがリベートを代理要求するだろう。ある外資系企業の経営者が、日本のこうした商習慣に納得できず、顔を真っ赤にして4文字の英語で怒鳴った話を聞いたことがある。「売ってやるって態度が嫌いなんです」と、家電量販店をハナから相手にしない、周辺機器会社の経営者を知っている。
“売る”を忘れた店員こそ大問題
アキバの裏通りには有名家電量販店が販売しないノーブランドの記録メディアなどを見かける。量販店の店内では、「信頼できるのは、やはり国産メーカー品ですね」と接客するが、裏通りでは、「ノーブランドでも使えれば同じですよ」と接客する。家電量販店の実情は、メーカーの「握る」の結果で、「あのねぇ、ヒトも出せない、カネも出せないじゃ、取引できませんと断られました」と教えてくれたのは、海外記録メディア販売代理店の営業マンだ。アキバの面白さ・奥深さ・複雑さは、量販店が取引に応じない商材を、「ああ、いいですよ。下代はなんぼ?」と、簡単に取引に応じてくれるショップもあることだ。
現在の家電量販店の販売システムは、万能なのだろうか? 「公取委が目をつけていますよ」と教えてくれたのは旧知店員だ。「独禁法と下請法を厳正・的確に行使したら、どこの家電量販店も限りなくクロに近いですからね」と指摘した。景気が冷え込んでいるから、メーカーは無理難題に応じているが、エコポイントの追い風や地デジ景気が終了したら、強烈な逆風が吹くようになるだろう。在庫の山にリベートで応ぜよと強要しようものなら、提訴に踏み切るメーカーが出るのではないか。「もっとも、困るのはヒトの問題でしょうね。売るヒトを引き上げられたら、どうやって商売するんでしょうか?」。“売る”を忘れた店員こそ大問題だ。
品揃えの課題もある。量販店の周辺機器売場で、店員に質問したことがある。周辺機器はライフサイクルが短く、アイテム数がやたらと多い。HDMIケーブルひとつをとっても、長さや規格で種類は膨大だ。「どうして、コチラの売場は特定企業の商品ばかり取り扱っているんですか?」「実は販売システムの関係で、本部がメーカーを絞ったほうが合理的だと判断したもので…」。POSシステム導入で、効率経営を重視を優先し、「握る」周辺機器会社を選別してしたのだ。コレでは売場面積がいくら大きくても、品揃えは知れたことになる。もっとも、ソレを販売するのは派遣店員だから、ロボット店員は痛くも痒くも感じない感性だが。
イラスト●朝倉千夏
(続く)
(島川言成)