尖閣衝突ビデオをダウンロードしたあなたは著作権侵害?
守秘義務違反だけではない、流出事件のもう1つの側面
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101221/1029271/田村 規雄=日経パソコン
2010年11月初め、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突ビデオが「YouTube」に流出した事件はご記憶でしょう。その後、神戸海上保安部の主任航海士が投稿を告白し、さらに同じ内容のビデオが各会派や報道各社に正式に公開されたことで、事件は一段落。話題になることも少なくなりました。ネットを通じた流出事件としては、内部告発サイト「Wikileaks」(ウィキリークス)にすっかり注目が移ってしまったようです。
そのため「今さら」という感じもするのですが、衝突ビデオの流出に関して、テレビや新聞がほとんど触れていなかった「著作権」という側面が気になりました。YouTubeといえば、違法にアップロードされた映像が問題になることもあります。2010年1月に施行された改正著作権法では、違法にアップロードされた映像と知りながらそれをダウンロードすることも「違法」とされました。
衝突ビデオが適正な手順を踏んで公開されたものでないとすれば、その映像をダウンロードしてパソコンに保存したり、ネット上に転載したりしたユーザーは、著作権を侵害したことになるのでしょうか。そして元をたどれば、同ビデオをYouTubeに公開した主任航海士もまた、ビデオの著作権を侵害して違法にアップロードしていることになり、その罪を問われる可能性があるのではないでしょうか。
この疑問を解消すべく、「日経パソコン」の2010年12月27日号のコラム「焦点」では、西村あさひ法律事務所の山口勝之弁護士に、衝突ビデオの著作権問題を解説していただいています。詳細は本誌をご覧いただくとして、ここではそのエッセンスを紹介しましょう。
みんなの党チャンネルで公開されている問題の衝突ビデオ
【個人的メモ:下記のURLにアクセスし、右側にある動画一覧から2010,11,24の日付に該当の動画がある。全部で6本か?
http://www.youtube.com/user/yourpartyjapan#p/u
】
衝突ビデオに著作権はあるのか
ポイントとなるのは、衝突ビデオが著作権法の対象となる著作物かどうかです。
公的な著作物の中には、法律や政令・規則の条文、裁判所の判決のように著作権がないとされているものもありますが、それ以外については、公的な著作物でも著作権は成立します。
問題は、衝突ビデオが「著作物」に該当するかどうかです。著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。一方、衝突ビデオは単なる記録映像なので、こうした創作性の基準を満たすかどうかがカギとなります。
この点について山口氏は、44分間の映像が複数の映像をつなぎ合わせて編集されていること、後からテロップなどが追加されていることなどから、「少なくともビデオ全体では編集著作物といえそうである」としています。つまり、衝突ビデオにも著作権が認められる可能性があるというわけです。その著作権は、撮影した個人に帰属するのではなく、国家公務員であれば国のように、使用者である機関に帰属します。
衝突ビデオに著作権があるとすれば、「そのファイルを閲覧できるようにした者は国の持つ送信可能化権や公表権を侵害していたことになり、それと知ってダウンロードしファイルを保存していた人も、国の持つ複製権を侵害していたことになる」と山口氏は指摘しています。
とはいえ、国はもっぱら国家公務員法の守秘義務違反を問題にしていて、著作権侵害を追及するといった話は全く耳にしません。国民の中には、流出させた主任航海士を擁護する意見も出ているわけですし、衝突ビデオを複製、転載した人を著作権侵害で訴えるようなことをすれば、反発が強まることは必至です。著作権の問題については触れられないまま、複製・転載されたビデオだけがネット上に残ることになるかもしれません。
山口弁護士も、国の対応について「権利者である国としてもそのようなアップロードや複製の作成を許容するという態度が明らかとなったように思われる」として、その場合に「過去に遡って著作権・著作者人格権侵害はなかったとする考え方も十分に成り立つものと考えられる」と今後の推移に注目しています。
ちなみに、YouTubeに流出した衝突ビデオは、テレビのニュースで毎日のように放送されていました。この放送自体は、著作権の侵害にはならないのでしょうか。実は著作権法は、時事の事件を報道する場合に、その過程で視聴される著作物を、「報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる」としています。従って、ニュース報道の中で同ビデオを利用することは、著作権法上、問題ないのです。
(田村 規雄=日経パソコン)
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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