【第15回】 2010年3月26日 西川敦子
夫のカードで“秘密の借金”!?
「6月危機」に脅えるサラ金妻たち
http://diamond.jp/articles/-/7701「貸付けを止められたら返済できなくなる。借金のことが夫に知られたら生きていけません……」
サラ金地獄にはまっている主婦たちが、今“6月危機”に脅えている。今年6月18日に施行される「改正貸金業法」で「総量規制」がはじまるからだ。
総量規制とは、個人の借入総額が原則、年収の3分の1以下に制限されること。そうなれば無職の専業主婦は、夫の年収証明の提出や同意がない限り、事実上、おカネが借りられなくなる。
自転車操業で借りては返す生活を続けている女性には、まさに一大事だ。
昨年11月に公表された日本貸金業協会の調べによると、借入をしている専業主婦のうち「配偶者は借入れについて知らない」と答えた人は38%。4割近くに及んだ。理由は「気まずくなるから」が52.2%と最多だ。
また、貸金業者側も「すでに専業主婦への貸付けを停止している」と回答した割合は17%。6月以降も貸付けを行う、という業者は7%にすぎなかった。
「主婦のあなた。来店不要で誰にも会わずキャッシングができます」
「お電話1本、女性スタッフがお応えします。手続きは簡単!」
こんなキャッチフレーズにつられ、借金を繰り返してしまう主婦たち。彼女たちはなぜ、消費者金融に手を出してしまったのだろうか。
育児休業中の生活費に困り
キャッシングに走る妻
「別にブランド物を買ったりしたわけではないんです」。
40代の主婦、前田恭子さん(仮名)は、生活費や子供の教育費、老親介護のための帰省費用などでおカネが足りず、ついついキャッシングを続けていた。
自分のパート収入はもちろん、夫のボーナスも返済に回したが、それでもまだ月々の返済額には足りない。ついに、夫のカードにも無断で手を出すようになってしまったという。
一方、伊藤麻里さん(仮名・30代)は、育児休業がきっかけで、カードキャッシングを始めた。
夫はフリーランスで収入は安定しない。顧客からの入金も遅く、家計は火の車だった。なんとか自分が早く仕事に復帰しなくては、と焦ったが、保育園の空きはない。
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賃貸住宅の更新料に、夫の海外取材の仮払い費。かさむ出費に収入が追い付かず、月末になるとあちこちのATMを回っては少しずつ借り入れをしていた。食料や生活必需品の支払いはクレジットカードで。借入れ総額はいつのまにか300万円を超していた――。
女性の多重債務問題に取り組むNPO法人「女性自立の会」(理事長 有田宏美さん)には、さまざまな主婦から相談が寄せられている。
買い物やエステの費用がかさんでしまったという人は確かに多い。だが、それだけではない。
前田さんや伊藤さんのように昨今の不況から生活費に困窮し、やむなく借金する人もいる。とくに小さな子どもを抱えている場合は、預け先がなく、働けないケースもある。住宅ローンの返済に困り、やむなく借金してしまう人もいることだろう。
実際、「働く女性の全国センター」には、貧困に直面する主婦たちの声が多数届いている。
「妊娠したことを告げたら、『正社員からパートになれ』と言われました」(30代・正社員)
「つわりがひどいだろうから、と一方的に自宅待機を言い渡された。賃金保障もなければ、社会保険にも加入していない。不安でなりません」(30代・パート)
「正社員と同じ勤務時間で職務内容も同じなのに、給与は正社員の半分。生活できません」(40代・フルタイムパート)
「高校の非常勤講師です。他の教師の4分の1~5分の1の給与で、年収は130万円しかありません」(50代)
ちなみに、「女性自立の会」が相談者を対象に行ったアンケート調査によると、初めから消費者金融に手を出す人は3%とまれ。最初はクレジットカードのキャッシング枠を利用するケースがほとんどという。やがて手持ちのカードの借入枠がなくなれば、新たにカードを作成したり、消費者金融を利用したりする。
軽い気持ちでキャッシングを重ね、気づけば多重債務地獄に――。派遣切りや育休切り、夫の収入減など、不安定な環境に置かれる主婦にとって、クレジットカードは甘く恐ろしい罠なのかもしれない。
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貸金業者「大淘汰時代」が始まった!
とはいえ、前述のように今年6月以降は状況が一変する。専業主婦への貸付けを停止する業者が激増するばかりではない。貸金業そのものを廃業する業者も急増する。
金融庁の調べによると、2009年10月現在の貸金業者数は全国で4752件。このうちおよそ半数は、6月までに業界から撤退すると見られる。
彼らを追い詰めているのが、改正貸金業法の「財産的基礎要件の引き上げ」。貸金業を営むのに必要な純資産が300万円から5000万円へと、ぐっと引き上げられる。
きわめつけは改正法、最大の目玉「グレーゾーン金利の撤廃」だ。
これまで、出資法と利息制限法というダブルスタンダードが存在していた利息上限を一本化。出資法の上限の年率29.2%を、利息制限法の上限20%にまで引き下げる。
これにより、行政処分とならなかった20~29.2%、すなわち「グレーゾーン金利」が完全に撤廃されることとなる。おかげで、利息制限法の金利を守らず出資していた業者は、「過払い金」、すなわち、債務者が払いすぎたおカネの払い戻しに追われている。過去3年間における業界全体の利息返還請求対応コストは約4.4 兆円だ。
昨年12月には、アイフルの事業再生ADR手続きが成立。アコムは大幅コスト削減、プロミスは大量の人員削減をおこなうなど、大手ですら厳しい経営環境に立たされている。
ハゲタカ弁護士にあやしいNPO
主婦を狙う“業者”たち
全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会、太陽の会事務局長 本多良男さん。青木ケ原樹海付近に看板を立て、苦しむ人に手を差し伸べる活動も行ってきた
問題は貸し手を失う主婦たちである。
心配なのは、パニック状態からあやしい弁護士につかまり、“2次被害”に陥ってしまうこと」と話すのは、全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会事務局長の本多良男さんだ。
http://www.cre-sara.gr.jp/
同会には、過払い金返還請求を依頼した弁護士、司法書士とのトラブルが数多く報告されている。
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― 消費者金融4件から合計69万円を借りており、弁護士に手続きを依頼した。だが、減額できたのはたった3万円。それなのに着手金5万円、弁護士報酬、成功報酬17万円と、しめて79万円を支払わねばならなくなった。
― 依頼先の弁護士事務所では消費者金融の着手金は1件につき4万2000円。ヤミ金は6万3000円。自分が借りていたのは消費者金融だったのに、弁護士は勝手にヤミ金と判断。高額の着手金を請求してきた。借金残高が2万5700円の案件についても、同じように6万3000円を支払えと言ってきた。
もちろんこんな弁護士ばかりではない。だが、中にはハゲタカ弁護士や司法書士もいる。カモにされれば、過払い金請求で生活を再建できるどころか、逆に借金を増やしかねない。
“非弁”(弁護士資格を持たない業者)などが、直接、債務者に電話勧誘してくることもある。
『もしもし、●●事務所といいます。失礼ですが、もう過払い金の返還請求はされていますか』
「多重債務者の名前や電話番号が流出しているのか、いきなりこんな電話がかかってくる。あくまで推測ですが、廃業した元貸金業者が信用情報を不正に持ち出しているとしか思えない。弁護士が名義貸ししているだけの法律事務所や、あやしげなNPOもあるので要注意です」(本多氏)。
恐ろしいのは、「着手金を支払えない」「自己破産手続きの費用もない」といった人々が絶望し、自殺に追い込まれることだ。2008年の自殺統計(警察庁)によると、経済苦などが原因で自殺した人は7404人にのぼっている。
美人事務員がにこやかに対応?
「仏弁護士」に要注意
安心できる弁護士事務所を選ぶには、どんなポイントを見ればいいのか。
自殺や多重債務問題などに取り組む弁護士の岡林俊夫さんは「しっかり過払い金返還請求をしたいなら、弁護士と事務員の比率に注意しては」と助言する。
「考え方にもよりますが、大量の事務員がスピード重視で手続き処理する事務所はいかがなものか。当然ながら事務員は法律のプロではありません。弁護士と比べれば、ボクサーと一般の人くらいの開きがある。重要な話を聞き逃して、依頼人に不利な結果を招くケースもないとはいえない」。
中には、債権者に対し「法的な返還額の8割を返してくれればいいから」などと弱腰に出る弁護士事務所もある。
「こうした事務所を、債権者たちは“仏”と呼んでいるそうです。やはり、弁護士がしっかり対応してくれる“鬼”の事務所を探してほしい」。
美人だが素人の事務員が対応するばかりで、いつまでたっても弁護士が出てこない事務所は、パスしたほうがよさそうだ。
“鬼事務所”かどうか見極めるには「利息も含め、全額回収してもらえるか」を事前に確認するといい。
相談すれば道は見つかる!
法律のプロや自治体を頼れ
「信頼できる法律事務所が見つからない」「そもそも弁護士に依頼する費用がない」といった場合は、しかるべき窓口に相談しよう。
太陽の会に寄せられた相談ファクス。借金苦に苦しむ人を再び増やしてはならない。「そのためにも、6月の改正貸金業法は延期されてはならないのです」(本多さん)
たとえば、前出の本多さんが事務局長を務める「太陽の会」では、8つの方法で債務整理を行う。
「過払い金返還請求だけでなく、任意整理や特定調停、民事再生手続き、時効、相続放棄、自己破産などがあります」
もうひとつ、同会が精力的に行っているのが“ヤミ金対策”。ヤミ金業者を告訴、告発し、銀行口座の閉鎖や凍結を求める。
「最近は“090金融”といって、携帯電話だけでやりとりする業者もいる。こうした携帯電話番号についても、閉鎖、凍結を訴えていきます。業界環境の悪化などで、ヤミ金業者は実際、減っている。当会の相談内容も2005年はヤミ金対策が38%だったが、昨年は8%にすぎない。絶望せず、積極的に相談してほしい」(本多さん)
また、借り先がなくなり、生活苦におちいっている場合は、生協やNPOバンクなどの貸付制度を利用することもできる。
東京都の「生活サポート基金」、岩手県消費者信用生活協同組合などだ。また、自治体でも多くの場合、生活資金の貸付制度などを設けている。詳細は自治体ホームページをチェックしよう。
ただでさえ多重債務はつらく苦しいもの。夫にも言えない“秘密の借金”ならなおさらだ。だが、隠しているだけでは、何も解決できない。プロに打ち明ければ、きっと生活再建への一歩が踏み出せるはずだ。
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