2010年3月21日日曜日

印象と違い寿命が短い田舎暮らし-医療環境も劣悪

別荘田舎暮らしが「姥捨て山」になる!

http://netallica.yahoo.co.jp/news/115631

2010/3/21 10:00

 山や川に囲まれた田舎暮らし。団塊の世代を中心に地方移住がブームになっている。退職金を元手に土地を買い、無農薬野菜を育てる。だが、憧れの田舎生活には落とし穴が待っている。

●慣れない生活で離婚へ
 夫婦水入らずで農業を始めたい。4月に入居を開始する福島県下郷町の居住型市民農園「クラインガルテン下郷」が、1月に入居募集をしたところ、「団塊世代を中心に希望者が殺到。1カ月で応募を締め切った」(同町・産業振興班)という人気ぶりだった。ログハウス風の新築住居に農地60坪、農機具が付いて年間費用は40万円。憧れの“田舎暮らし”がコンビニ感覚で手に入る。
 朝は太陽とともに起き、自家製クロワッサンで朝食、無農薬野菜を育て、都会暮らしの息子夫婦に送る……。都会でエコライフを気取っている人たちより、いいような気はする。
 しかも、地方不動産は安売り中。人気の軽井沢でも、温泉大浴場付きリゾートマンションが1000万円、新築別荘も2500万円程度から手に入る。勤続38年で定年退職(部長・次長級)すると、退職金は約2771万円。別荘を買ってもオツリがくるのだ。
 だが、田舎暮らしを簡単に考えてはいけない。総務省「地域力創造アドバイザー」の金丸弘美氏がこう言う。
「憧れだけでは務まらないのが、田舎暮らし。過疎の自治体は、耕作放棄地や人口対策で働き手を募りますが、慣れない暮らしで夫婦仲に亀裂を来し、1年で都会に戻る人も多いのです」
 山田太一脚本のドラマ「高原へいらっしゃい」で80年代にペンションブームがあったが、一過性で終わった。あのブームも、団塊世代が担った。
「退職金を受け取った団塊世代の金融資産は、約80兆円。信託や不動産、マーケティング会社の“仕掛け”に踊らされている可能性もある」(金丸氏=前出)
 移住して、シャッター通りと化した商店街やカメムシの大量発生にガク然としても遅い。

●妻の多くが望まない
 健康的なイメージがある田舎暮らしだが、実際は寿命が短くなる。男性の平均寿命78.8歳に対し、平均が80歳を超す長寿自治体は、横浜市、川崎市、三鷹市など都市部に集中。空気がおいしく、ストレスが少なければ〈長生きする〉は幻想だ。
 なにしろ、地方の地域医療は脆弱(ぜいじゃく)。人口10万人あたりの医師数は212.9人(08年)だが、東北、北信越の多くの県で平均を下回る。長野県の伊那中央病院など医師不足で診察を制限する病院も多い。さらに、08年に救急搬送された重症疾病者40万人のうち、1万4732人が「3つ以上、受け入れを断られ」た。病院のたらい回し問題も地方で深刻だ。
 また、長年連れ添った妻にラクをさせてあげたい。そんな気持ちが、すでに空回りしている。
「女性は、現在の居住地域にコミュニティーを築き、通い慣れた美容室もある。なにを今さら不便な……で、私の知人の奥さんも、1年で青森から東京に戻ってきました」(金丸氏=前出)
 阪大の筒井義郎教授らの幸福感調査によると、〈都市在住、専業主婦、社宅か一戸建て住まい〉の女性が、最も幸せを感じているという。
〈無農薬野菜はおいしいぞ〉
〈あらそう。収穫できたら東京に送ってね〉
〈……〉
 国交省推計では、3年後に2地域居住等世帯は、今の2倍の400万世帯に増える。妻のために始める田舎暮らしだが、実は夫の〈姥捨て山〉になっているのだ。

(日刊ゲンダイ2010年3月18日掲載)