股関節障害の女性「車はぜいたく」訴訟 生活保護“NG”史
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20100304/dms1003041227002-n2.htm2010.03.04
生活保護を受けていた大阪・八尾市の母子の心中を報じた産経新聞朝刊【拡大】
足に障害がある大阪府枚方市の無職女性(69)が先月末、生活保護の申請をめぐって同市を相手取り、大阪地裁に訴えた。「車の所有はぜいたく」と申請を却下したのは違法として、約280万円の賠償などを求める内容。女性は「車は最低限度の生活に不可欠」と主張する。生活保護制度がスタートして今年で60年。歴史をたどると、意外なモノが“NG”とされていた。
訴状によると、女性は股(こ)関節の障害により歩行が不自由で、通院などに車を利用。2006年から生活保護を受けたが、市は車を処分しないとして07年5月に打ち切った。女性は昨年4月、保護の開始を申請したが却下された。
厚生労働省によると、受給には収入や資産の活用が前提で、車は売却指導の対象という。ただし、「障害者にとって通勤や通学に必要で、公共交通機関を利用できない場合などは所有を認めている」(担当者)。
実は、この種の“ぜいたく品論争”は昔からある。1966年1月には、大阪府八尾市で冷蔵庫を売るよう指導された母子2人が一家心中。「電化生活しかられ」との見出しで報じた同28日の産経新聞によると、夫と死別し、病弱な娘=当時(1)=の世話で仕事に出られない母親=同(27)=は月額約1万6000円(当時)の保護費で生活。ケースワーカーに「生活がぜいたくすぎる。冷蔵庫は処分しなさい」と言われ、思い悩んだ末の決断だったという。
94年には埼玉県桶川市で、月額約1万円の保護を受けていた1人暮らしの女性=当時(79)=が「クーラーはぜいたく」との市の指導を受けて撤去。同年の猛暑で女性は脱水症状となり、約40日間の入院に追い込まれた。
厚労省によると、居住地域での普及率が70%に達していなければ、電化製品などはぜいたく品とみなされるという。実際、カラーテレビや電話がご法度の時代もあった。ただ、運用をめぐってはトラブルが多発。生活保護問題に詳しい弁護士は「受給者の命に関わるトラブルが起きてから、所有を認めるようになった事例も少なくない」と言う。
元ケースワーカーの吉永純・花園大教授は「これだけ車が普及した時代に、『車はぜいたく品』と一律的に解釈するのはおかしい。厚労省は柔軟な運用を指導しているというが、現場には徹底されておらず、行政の基本姿勢は変わっていない」と指摘する。
もっとも、厚労省担当者はこう明かす。「住民感情に配慮せざるを得ない面もあるんですよ。派手に車を乗り回す受給者を見た周囲から『金をもらって何だ』と苦情が殺到することもあるので。こればかりは地域ごとに判断してもらうしか…」