【ドラマ・企業攻防】“大迷走”ウィルコム再建 三者三様の思惑に翻弄
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100306/biz1003061802012-n1.htm2010.3.6 18:00
このニュースのトピックス:ドラマ・企業攻防
会社更生法の適用申請後の会見で陳謝するウィルコムの久保田社長と、ウィルコム端末の売り場
国内唯一のPHS事業者であるウィルコムの再建が迷走している。銀行や出資者の思惑に振り回されて法的整理に追い込まれたウィルコム。今度は、支援に乗り出した半官半民の企業再生支援機構とソフトバンク、アドバンテッジ・パートナーズ(AP)の三者の思惑が複雑にからみ合い、再出発もままならない状況になっている。
上場頓挫で歯車狂う
「上場していれば、もっと違う状況になっていたかもしれない」
ウィルコムの久保田幸雄社長は更生法適用申請後の会見で、こう悔やんだ。
ウィルコムが負債総額2060億円という通信事業者としては過去最大の破綻に追い込まれたのは、「利害関係者に翻弄された結果」といわれている。
DDIポケットが前身のウィルコムは平成16年10月に、米投資ファンドのカーライル・グループと京セラが、親会社のKDDIから株式の81%を買い取り発足した。
当時、画期的だった通話の定額料金制を導入するなどで発足から2年でPHSの契約者数を300万人から450万人超へと1・5倍に拡大。さらに現行の携帯電話よりも通信速度の速い次世代PHS「XGP」の展開に向け、総務省から免許を取得するなど攻勢を強めた。
ところが、20年秋の「リーマン・ショック」で歯車が狂い始める。
同年に予定していた上場計画は市場環境の悪化で頓挫。カーライルも追加融資を渋り、XGPの全国展開は事実上不可能となった。
焦ったウィルコムは昨年9月に、借金の返済分を投資に回そうと、取引先銀行に返済を猶予してもらう私的整理の一種である「事業再生ADR」の手続きに入った。
背後に総務省の思惑
だが、主力行である、みずほコーポレート銀行は、一貫してXGP事業に否定的だったという。電波が微弱で人体や電子機器への影響が少ないというメリットを活かした医療機関向け中心の既存PHS事業で生き残りは十分に可能との考えから、「返済猶予で新規投資を賄うなど筋違い」(関係者)と突き放し、ADRは不調に終わる。
ウィルコムが次にすがったのが、発足したばかりの企業再生支援機構とライバルのソフトバンクだ。
その背後では、「日本独自の技術として推進したPHSの消滅は、自らの失政を認めることになる」(通信業界関係者)と考えた総務省の意向が強く働いたといわれている。
ソフトバンクは当初、「ただでも要らない」(大手通信事業者幹部)と難色を示していた。しかし、XGP事業を取り込むことで、NTTドコモやKDDIに比べ見劣りする通信網を充実できると判断し支援を決断した。
支援機構が尻込み
だが、今度は支援機構が尻込みを始める。内部で、ウィルコムに出資すれば、ソフトバンクの事業拡大を公的資金で支援する形となることに異論が噴出したためだ。
結局、支援機構は出資を見送り、120億円のつなぎ融資枠だけを設定する方向となったが、「できるだけ自力調達してほしい」(幹部)と距離を置く。
さらにPHSは医療現場に欠かせないという公共性を支援の大義名分にしており、XGPという将来事業を支援するわけにはいかないとの異論が浮上。結局、ウィルコムを既存PHSと次世代XGPに分割するという「非合理的で不自然な手法」(関係者)が採用された。
あてが外れたのが、ソフトバンクとAPだ。特に投資ファンドであるAPは、「リターンを確実にするため、無理難題を要求した」(関係者)という。
この結果、3者の調整は難航し、当初25日予定されていた機構による支援決定が先送りされたままの宙ぶらりん状態。機構は週内にも支援の是非を最終判断する見通しだ。
そもそも、支援機構が担ぎ出された背景には、機構の第1号案件である日本航空の会長に就いた稲盛和夫・京セラ名誉会長への配慮があるとの見方が強い。
関係者は「ウィルコムの事実上の創業者でもある稲盛氏に日航支援を引き受けてもらったこととの見返りでは」と疑う。
“親方日の丸”の甘えの体質から破綻した日航とは違い、独自の技術と新機軸のサービスで果敢な挑戦を続けてきたウィルコム。最後の最後に“お上”にすがった再建の前途は多難だ。(飯田耕司、藤沢志穂子)