認知症と間違われる「特発性正常圧水頭症」は治る
http://www.zakzak.co.jp/health/disease/news/20091117/dss0911171629002-n1.htm2009.11.17
いま日本は65歳以上の高齢者が5人に1人の割合だという。もはや介護するのもされるのも人ごとではないが、そんな中、高齢者に多いある脳疾患が注目されている。「特発性正常圧水頭症(iNPH)」とよばれる疾患で、認知症の症状を見せるが、治療をすれば症状は改善する。治らないと思われていた認知症の症状を持つ人が、普通の生活を取り戻すことも珍しくないというのだ。
「決して高額な手術ではないので、これで"認知症患者"の中から多くのiNPH患者を救うことができれば、医療費削減にもつながる。そのためにも、この疾患の存在を広く知ってほしい」。iNPH治療の第一人者で東京共済病院院長の桑名信匡医師はこう訴える。
iNPHは、脳と脊髄(せきずい)の表面を循環する脳脊髄液が、何らかの原因で循環不良になる病気。この脳脊髄液が脳室内で過剰にたまり、脳組織の各所を圧迫することでさまざまな症状を引き起こすが、中でも代表的なのが認知症。ここから歩行障害や尿失禁などにつながっていく。原因は分かっていないが、医療界では40年以上も前から存在が指摘されていた。
「高齢者に多いため、単なる老化現象、あるいはアルツハイマー病などによる認知症と勘違いされているケースが少なくない」と桑名医師。国内で高齢者の1.1%にあたる約31万人がこの疾患による認知症を呈している可能性があるという。
このiNPHには効果の高い治療法がある。
「脳でたまりすぎた脳脊髄液を外に出すという考え方。以前は脳から腹腔などに"シャント"とよばれる管を通して液を流す手術が行われていたが、最近は脳脊髄液が循環している腰椎から腹腔に管を通すことで、より簡便で安全性の高い治療が可能になりました」(桑名医師)
現在、桑名医師らが使うシャントは、体内に設置した後でも脳内の脳脊髄液の圧を調節する機能があるため、手術による合併症のリスクも大幅に減った。
「iNPHによる症状であれば、この治療で劇的に改善する。寝たきりで意思の疎通もできなかった人が、一人で食事ができるようになることも珍しくない。当人はもちろん、介護に追われていた家族にとっても喜びは大きい」(桑名医師)
表の症状のいずれかに該当し、画像診断でiNPHの疑いがあれば検査の対象となる。背中から少量の脳脊髄液を抜き、症状に軽快の変化が見られれば手術が可能だという。
■特発性正常圧水頭症の診断基準
○認知症症状
○歩行障害(普通に歩けない、よく転ぶ)
○尿失禁(頻尿を含む)
※上記のいずれかに該当し、脳の画像診断でiNPHが疑われ、タップテスト(脳脊髄液を少量抜いて症状の変化を見る検査)で陽性となった場合、手術の適用となる