2009年11月2日月曜日

【社内指導無効】靴をぶつける上司への会社の対処法

「靴を投げつける上司にレッドカードを!」と部員がクレーム

http://www.j-cast.com/kaisha/2009/11/02053019.html

2009/11/ 2 12:11

不況下で売上不振が続き、担当管理職に多大なプレッシャーが掛かっている。ある会社では、激高した営業部長にモノを投げつけられた部下が「上司を辞めさせてくれ」とクレームを付けてきた。人事担当者はどういう対応にするか頭を悩ませている。

社内規程もあるし研修もしている。解雇も視野に・・・

――広告代理店の人事です。営業部門の社員から「上司がモノを投げつけるので、危ないです。もう耐えられないので上司を辞めさせてください」という相談がありました。

詳しく聞いてみると、営業部長が部下のミスを見つけると、呼びつけて罵倒し、興奮するとモノを投げつけるとのこと。投げるものはボールペンやメモ帳などが多いようですが、時には自分の靴を脱いで投げるときもあったそうです。

幸い、靴は人に当たらなかったようですが、もしケガでもしたら会社の責任も問われかねません。そこで営業部長を呼んで注意をしたところ、数はだいぶ減ったようですが、ときどき手近なものを投げたり叩きつけたりしているようです。

また営業部長は激高したあとに、部下が残業していても「お前らは仕事が遅い!」と言い残して定時に帰ってしまうことも。

社内ではハラスメント研修を含めて、管理職を対象とする研修会をしていますし、各種の社内規程も整備しています。会社としても手の打ちようがないので、そろそろ「解雇」を見据えた対処を考えようと思っていますが――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
よほどのことがない限り「懲戒解雇」が行われない理由

これはほとんどパワハラですね。念のため、部下や関連部署の人などからヒアリングを行い、必ず事実関係を確認して対応を決めましょう。社内規程が整備されているようですので、懲戒解雇しようと思えばできるかもしれませんが、実際には閑職への配置転換などにとどめ、厳し目に処分するとしても降格を伴うのが一般的です。機密漏洩や横領のほか、警察沙汰になったりするなどして会社の経営に影響が出るようなことがない限り、懲戒解雇はあまり行われません。

これは温情的な処分にも見えますが、解雇した部長から不当解雇で訴えられたり、逆恨みで思わぬ攻撃を受けたりすることを避けるためのリスク対応でもあります。会社の管理責任もあります。どの会社でも余剰人員を抱えておく余裕はないでしょうが、部下を配置せずに、ひとりで仕事をやらせて、しばらく様子を見てみることから始めてみては。その後は話し合いで、退職を勧めて応じてもらうことも考えられます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
許容範囲を超えた「ストレス」が暴力を引き起こすことも

営業部長の行動に問題があることは明らかですが、ここはあえて部長側に立って物事を考えてみましょう。相談内容には書かれていませんが、営業部門の業績はどうだったのでしょうか。部長の指導力の影響もあるかもしれませんが、このご時勢に思ったように上がらなかったのではないでしょうか。部長を務めるからには一営業マンとしては優秀だったのかもしれず、強いストレスを感じていたことも十分に考えられます。また一社会人として、長く勤めていれば良いときと悪いときの波が往々にしてあるものです。

このようなことが重なり、許容範囲を超えたストレスのために、通常では「やってはいけない」と分かっていることでも抑えられなくなってしまうこともあります。これは暴力的な言動といった極端な攻撃性だけでなく、酒やタバコの量が非常に増えるといった形でも現れます。処分の前に、相手を落ち着かせて話をよく聞き、必要であればカウンセラーや専門医へつないでいくような対応もあり得ます。

>>ヨソでは言えない社内トラブル・記事一覧

(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て、2007年に独立。ライフワーク・ストレスアカデミー代表として企業のコンサルティングを行いながら、秋田大学医学系研究科で自殺予防の研究に携わっている。『ケーススタディ 認知行動カウンセリング』(至文堂)に執筆者として参画。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)
特定社会保険労務士、野崎人事労務管理事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自立型人材の育成を支援。働く人の視点を踏まえたマネジメント手法を追求している。2008年秋よりJ-CASTで「できるヤツと思わせる20のコツ」を連載し、同名のmixiのコミュニティも運営中。