山元大輔 [監修](東北大学大学院生命科学研究科教授/理学部生物学科教授)
【第16回】 2008年08月22日
固有名詞が思い出せない! 中高年の「もの忘れ」はなぜ起こる?
http://diamond.jp/series/brain/10016/
──年を重ねると「脳内検索エンジン」が低下
人間は、脳あってこその存在。人の行動、思考、感情、性格にみられる違いの数々は、すべて脳が決めているのです。「心の個性」それはすなわち「脳の個性」。私たちが日常で何気なく行なっていることはもちろん、「なぜだろう?」と思っている行動の中にも「脳」が大きく絡んでいることがあります。「脳」を知ることは、あなたの中にある「なぜ?」を知ることにもなるのです。この連載では、脳のトリビアともいえる意外な脳の姿を紹介していきます。
50歳を越えると
はじまる「もの忘れ」
若いときは些細なことも明確に覚えられたのに、ある年齢を過ぎると、とたんに記憶があいまいになりますよね。特に固有名詞が出てこなくなります。
それに気づきはじめたとき、誰もが「ああ、ついに自分にも老化がはじまったのか…」と、自分自身の記憶力に自信を失いはじめるのではないでしょうか。
個人差はあるとしても、50歳を越えるとその傾向が顕著となります。なぜ中高年になると、記憶力が落ちたと感じるのでしょう。
人間の記憶力は、シナプスと深い関係があります。シナプスは神経細胞と神経細胞とをつなぐ重要な役割を果たしていますが、記憶の場合もシナプス抜きでは考えられません。人間はさまざまな神経細胞を組み合わせてシナプスをつくり、多くの物ごとを記憶しているのです。
しかし、その神経細胞の組み合わせ方は、若い時代と中高年になってからでは異なっています。
それはいったいどういうことなのでしょう。
「思い出せ」という
電気信号の低下
記憶力の低下はどのようにして起こるのでしょうか。
若いころであれば、人間は自分の使いやすい神経細胞を組み合わせて、記憶を行います。それだけ神経細胞の組み合わせはバリエーションに富み、それが記憶を容易にし、記憶力そのものを高めているというわけです。
これに比べ、年齢を重ねると、若いころより神経細胞の組み合わせのバリエーションが少なくなり、むしろ使い残した組み合わせを使うようになります。それが記憶力を低下させる要因になっているのです。
一方「もの忘れ」は、正確には記憶力の低下とは別物です。
これは、記憶したものを取り出すために必要な集中力、検索力が、年齢のせいで低下したために起こるとされています。
人間が何かを思い出そうとする場合、「×××を思い出せ」という命令を記憶の回路に送らなければなりません。その命令には電気的な信号が必要になってきます。通常、それらの信号が送られれば、命令はたちまち記憶の回路に入り、思い出すという行為になります。
しかし、意識の集中力が弱いとき、命令はすぐには記憶の回路にアクセスができません。こうなると、思い出すという行為も思い通りにはなりません。これが「もの忘れ」の実態です。ただし、記憶を失ったわけではありません。もの忘れと記憶喪失は明確に違うものなのです。