2008年8月19日火曜日

高血圧の治療指針策定の医師に業者が資金提供、信頼性に疑問

A doctor and a company fund.
A hypertensive treatment indicator is doubt in reliability.

A company gave a fund to a doctor of the hypertensive treatment indicator development.
Reliability is doubted.

医師と企業資金
治療指針 揺らぐ信頼性
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20080811-OYT8T00234.htm

高血圧の治療指針。2009年版の策定に向けて現在、改訂作業が進められている

 高血圧には、1980年代後半から次々に新薬が登場し、格段に治療が進歩したとされている。

 ところが2000年、米国立研究機関は、この常識を覆す研究結果を公表した。古くて安価な治療薬である利尿薬でも、有効性は高価な新薬と変わらなかったのだ。米国ではこれを受け、利尿薬を最初に使う薬として、治療指針に定めた。

 しかし、04年に日本高血圧学会が作成した治療指針は違った。「カルシウム拮抗(きっこう)薬」や「アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB薬)」などの新薬を治療の軸とし、利尿薬はこれらの薬で効果が不十分な場合に併用する、と補助的な位置づけとした。米国に比べ、新薬使用を勧める内容だ。

 指針を作成した委員のうち、国公立大医師9人全員に、指針作成までの3年間で計8億2000万円の寄付が新薬メーカーからあった
ことが、読売新聞の情報公開請求でわかった。

 委員長を務めた猿田享男(たかお)慶応大名誉教授は「大学の医師ならだれもが治療薬企業とかかわりがあり、無関係の第三者では指針を作れない。だからこそ、内容の公正さにはすごく気を使った」と強調する。

 だが、企業から医師への資金提供は、薬の評価に影響を与える、との研究もある。米国では、高血圧の新薬の効果に否定的な研究者では、企業から資金を得ていたのは37%だったのに対し、肯定的な研究者は96%が資金を得ていた。

 日本で4700人の高血圧患者を対象に、ARB薬とカルシウム拮抗薬の効果を比べた臨床試験で、心臓病の予防効果に差がなかった、と一昨年の学会で発表された。

 この試験は、ARB薬メーカーが実質的なスポンサーだった。試験に携わった専門医たちは、一般医師向けの講演会などで「ARB薬には、カルシウム拮抗薬と同等の優れた効果がある」と説明した。ARB薬は、カルシウム拮抗薬のほぼ2倍の値段だ。

 ところが、この試験結果を正式に報告した今年2月の論文では、ARB薬を使ったケースは、別の薬を併用した患者が多かった。


 東京都老人医療センターの桑島巌副院長は「他の薬を併用したのは、ARB薬だけでは十分に血圧が下がらなかったからで、降圧効果がカルシウム拮抗薬に及ばなかったことを意味する。専門家が講演会などで、資金提供企業に有利な説明をしてきたのは問題ではないか」と指摘する。

 ARB薬メーカーが資金提供した別の研究では、この薬の方が格段に効果が高い、との結果が出た。専門家からも「他の多くの研究と相いれない結果だ。薬の評価方法に問題がある」と疑問の声が上がっている。

 高血圧の治療指針は、5年ぶりの改訂作業が進んでいる。企業が資金提供した研究結果は、どう反映されるのだろうか。
(2008年8月11日 読売新聞)