2010年2月19日金曜日

新エネルギー技術での二酸化炭素削減は逆効果-現時点では良いのはイメージだけ

[究]過激なCO2削減策は逆効果――気候変動問題の視点 3

http://eco.nikkei.co.jp/column/kanwaqdai/article.aspx?id=MMECzh000018022010

(10/02/19)
池辺豊(いけべ・ゆたか)
日本経済新聞編集局電子報道部解説委員。科学技術部、日経サイエンス、つくば支局などを経て09年から現職。気象予報士。「環話Q題」ではニュースから解説、薀蓄(うんちく)まで、硬軟交えた幅広い環境トピックを紹介する。Qは幅広く扱うテーマの総称。見出し冒頭の[究]は科学研究・技術開発、[急]は時事問題、[求]は提言などを表す。


 地球温暖化を防ぐため、日本政府は二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの削減が焦眉の急と受け止めている。しかし、こうした考え方に異を唱える科学者は少なくない。日本化学連合の御園生誠会長(東京大学名誉教授)は、新エネルギーなどに頼った過激なCO2削減策はかえって逆効果と警鐘を鳴らしている。

御園生誠(みそのう・まこと) 1966年(昭41年)東大大学院工学系研究科博士課程単位取得退学し、同大助手。工学博士。83年教授、99年名誉教授。05~09年製品評価技術基盤機構理事長。化学系学協会が連携する日本化学連合を組織し、08年から現職。専門は触媒化学、化学環境学。


■太陽光発電は技術が未完成、経済性も低い

――先月出版された『新エネ幻想』(エネルギーフォーラム)で、「太陽光発電の急拡大は逆にCO2を増大させる」と唱えていますね。その根拠は?

 太陽光発電に限らず新エネルギーの急拡大に対しては慎重論です。「太陽電池の製造エネルギー回収期間は1~2年程度」と推進派の人たちは言っています。しかし、それは太陽電池そのものにかかわるエネルギー収支にしか着目していません。例えば2020年までにエネルギー消費の20%をまかなうとすると、大掛かりな工場とか生産設備を急いで整備しなければなりません。それに必要なエネルギーは膨大です。結果として、太陽光発電を急拡大させると、20年時点のCO2の累積発生量は大幅に増えてしまうでしょう。

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーが世界の全エネルギーに占める割合は0.3%以下と非常に小さく、とくに太陽光は0.02%しかありません。将来期待すべきエネルギー源かもしれませんが、現時点では技術が未完成で、経済性も非常に低いといえます。これらの新しい再生可能エネルギーが今後10~20年に世界の全エネルギーの10%を占めることはないと予想します。

太陽光発電の急速な普及が求められているが、課題も多い。太陽光発電の導入を積極的に進めている群馬県太田市で、住宅の屋根に取り付けられた太陽光発電システムのパネル=〔共同〕


 日本では太陽電池パネルを屋根に設置する家庭が急増しています。しかし、住宅用発電装置の設置コストは高止まりしており、発電量を平準化するのに必要な蓄電コストは発電に匹敵するほど高価だと試算されています。発電システムには長期間のメンテナンスが不可欠でもあり、コストパフォーマンスを考えると、太陽光発電の急拡大は将来に禍根を残す恐れさえあります。

 太陽光発電はいわゆる環境マインドがある市民に支持されていますが、実際のCO2削減効果はそう大きくはありません。国・地方自治体の補助金や高価な売電価格を通じて普及すればするほど、国民に経済的な負担を強いることにもなります。

■製造業の海外移転は最悪の手段

――過激な対策全般を疑問視されていますね。

 太陽光発電のように拙速で進めると、当面CO2は増えます。エコカーなどは高価なわりにCO2削減効果は小さく、バイオ燃料の先行きも厳しいでしょう。同じCO2削減効果ならコストの低い対策を当然優先すべきです。『新エネ幻想』でコスト試算をしていますが、コストパフォーマンスは、原子力>風力>バイオ燃料>太陽光発電>>電池自動車です。

 現政権は2020年に温室効果ガスの1990年比25%減を目標にしており、海外から購入する排出権などを除いた国内で減らす真水分は15%と言われています。現時点からの削減割合は4分の1。これは4日に1日停電することに相当します。そんなことできっこないし、やる必要もありません。

 最悪の手段は鉄鋼などエネルギー多消費型の製造業を一挙に海外に移転させることです。計画段階から完了まで10年単位の時間がかかり、従業員・家族を大勢連れていくことになります。関連産業も一蓮托生の身。外国で大きな工場を新しく建設すれば、大量のCO2が出ます。これでは世界の温室効果ガス削減に貢献できません。

――科学者たちはどうとらえているのでしょう。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書に、賛成している人も反対している人もいます。20世紀後半の急激な気温上昇を示したホッケースティック曲線が出てきたころから急に賛成派が盛り上がり、メディアと一体になって世論を作っていきました。しかし、昨年末からクライメートゲート事件、ヒマラヤ氷河事件などがたて続けに起こり、その信頼性が揺らいでいます。科学者が具体的な根拠を挙げて、一般社会の前で堂々議論することが重要です。

原子力からの脱却は難しい(新潟県の柏崎刈羽原子力発電所)


■原子力依存はやむなし

――将来のエネルギー供給のあり方を模索されていますね。

 現段階で化石燃料と原子力と再生可能エネルギーの比率は80:6:14です。ただし、再生可能エネルギーの大部分は、まきなどの在来型バイオ燃料(10%)と水力(2%)。21世紀末には太陽光や風力が普及し、この比率が40:30:30になると予想しています。20年後の2030年なら50:25:25がひとまずの目標。それで温室効果ガスの排出を2010年比で10%か20%削減できれば上出来でしょう。

 これだけ減らせれば、IPCCのシナリオから推定すると、許容できる2℃前後の気温上昇でとどまるはずです。どちらにしろ、原子力に依存しないと、化石燃料を漸減させつつ、増え続ける人類のエネルギー需要を満たすことは不可能です。もちろん、化石燃料の効率的利用にも努力すべきでしょう。

 日本が果たすべき役割は、太陽電池の発電効率を引き上げる、製造工程を効率化するなど、いい技術を育て上げること。そのほかの新エネ技術、省エネ技術にも磨きをかけ、それらを国内外に徐々に普及させるのが一番です。日本が世界に占めるエネルギー消費の割合、つまり温室効果ガスの排出割合は小さいので、無理して国内で減らそうと焦らずに省エネを自然体で着実にやっていけばいいと考えます。

[2010年2月19日/Ecolomy]