2010年2月19日金曜日

なぜか影響度の大きいアメリカの『栄養補助食品安全法2010(S.3002)』-日本にも

2010年 2月 19日

医薬品市場激震!?マケインが出したとんでもない法案

http://president.jp.reuters.com/article/2010/02/19/4CA01E8C-1D24-11DF-8E46-7BF73E99CD51.php

堀田佳男の「オバマの通信簿」【29】
PRESIDENT Online
1月11日、オバマ大統領はある「大統領令」に署名した。内容は「知事評議会の設立(EO13528)」というもので、タイトルだけを見ると地味である。

文=堀田佳男
キーワード: アメリカ バラク・オバマ

ジョン・マケインという名前を覚えておられるだろうか。

2008年大統領選挙で、オバマ候補(当時)の対抗馬として共和党から出馬していた政治家である。ベトナム戦争時、乗っていた戦闘機が北ベトナム軍に撃ち落とされて捕虜となり、7年間後にアメリカに帰還した屈強な男である。現在73歳。いまだに上院議員を務めている。

前回のコラムで、日本にはほとんど伝わらないニュースがアメリカにずいぶんあることをお伝えした。今回はそのマケイン議員が提出した、日本ではほとんど報じられていない重要法案の内容について記したい。

2月4日。議員はビタミン剤などのサプリメントの安全性をより高める目的で、「栄養補助食品安全法2010(S.3002)」という法案を提出した。全12頁。この法案が通過すると、自然な流れとして日本のサプリメント市場もたいへん大きな影響を受ける。

法案の主な内容は、アメリカ国内だけで4万5000種類といわれるサプリメントの副作用や安全性を政府がもっとチェックし、監視すべきというものだ。マケイン議員は、新しいサプリメント製品が市場に出る前に、政府はメーカー側に事前認可を与えるシステムを構築するつもりである。

これだけを聞くと真っ当な法案に思える。ところが、政治の世界は多くの場合、そう簡単にコトが運ばない。

議員が本当に安全性向上だけを目指しているのであれば何の問題もない。むしろ歓迎すべきである。だが、法案通過による影響と真意を吟味すると、大きな疑問符がつく。

アメリカ政府はこれまで、サプリメントを「食品の一部」と位置付けてきた。90年代半ばにサプリメントブームが起きたことで、議会は94年に「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」というサプリメント製品を規制する法律を作った。

それまでサプリメントは薬と食品の中間的な位置にあったが、法律成立後、サプリメントは食品の延長戦上に置かれた。それは業界にとっての分岐点とも言えた。医薬品であれば臨床治験が必要になるが、サプリメントは必要ない。効果や品質管理も医薬品ほど厳格さを求められない。

それによって、市場は爆発的な成長をみせた。なにしろ年平均の市場成長率は平均35%という凄まじさである。35歳以上の国民の実に78%は何らかのサプリメントを摂取し、市場規模はすでに10兆円を超えている。日本でも2兆円産業に成長した。

ところが、マケイン議員は同法案によって、サプリメントを医薬品とほぼ同じ線上に持ってこようとしている。これは何を意味するのだろうか。

サプリメントが医薬品と同じような扱いになると、アメリカ食品医薬品局(FDA)が業界を全面的にコントロールするようになる。医薬品という意味は臨床治験を行い、明確な効果が実証されなくてはいけないということだ。さらに使用が許可されるサプリメントの成分が決められてしまう。

つまり、これまで「当店のサプリメントは他では手に入らない物質」という商品は売れなくなる可能性があるのだ。また、どんなに小さな副作用も政府に報告される必要があり、小規模なサプリメントメーカーなどは採算が合わなくなる。サプリメント業界も、医薬品業界と同じように大手だけしか生き残れなくなる運命が予想される。

法案が通過すると当然、日本への影響も絶大だ。特に医療分野はアメリカでの動向が日本に直接影響を及ぼすことが大きい。これまで多くの新薬は、まずアメリカの食品医薬品局(FDA)が認可し、それが商品化されるコースを辿ってきた。それを厚生労働省が追随する形で認可する流れができている。日本だけでなく、ヨーロッパ諸国をはじめ、世界各国がアメリカの新薬開発の動向に注視している。

抗がん剤などは典型で、ほとんどがアメリカで新薬としてお目見えする。まず効果を試すために動物実験が行われ、そして実際の患者さんに投与される臨床治験へと進み、効果が審議されたあとにようやく市場に投入される。治療薬によっては10年という歳月と数百億円という単位がかかる。

同様のことがサプリメントにも適用されると、中小のメーカーは生き残っていけないばかりか、市場から多くのサプリメントが締め出されてしまう。それは選択の自由を奪われることにつながり、反対意見が強い。

ただマケイン議員のもう一つの狙いは、スポーツ選手が服用するステロイド剤などの副作用の強いサプリメントを取り締まることにある。「デザイナー・ステロイド」と言われる製品などは、サプリメントとして手軽に買える現状があり、そうした点では改められるべきだろう。

ただ現実を見ると、連邦議会には毎年1万本以上の法案が提出される。21世紀に入ってから本数が増え続け、大統領が署名して法律になるものはそのうちの5~6%でしかない。そのため、今回の法案の行方も、私は委員会レベルで潰されるだろうと推測している。

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プロフィール堀田 佳男

1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学 大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。

http://www.yoshiohotta.com/