不況に巣くう「悪質業者」に負けるな! 改善された「クーリングオフ制度」を使いこなして、「幸せ消費生活」を楽しもう。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20100203/208786/ファイナンシャルプランナー 宮里惠子
2010年 2月9日
「意外に知らない」クーリングオフ
「クーリングオフ」という言葉は、誰でも一度は耳にしたことがあるだろう。しかし実はこれ、意外に知られていないというか、間違って理解している人が多い。今回はこれを上手に使ってソンしない「コツ」を書いてみよう。
まず意味だが「冷却期間」のことで、「消費者が頭を冷やして再考する期間を与える」目的で制定された経緯がある。
クーリングオフが認められている期間は、当初は契約日から4日間だった。これが改正を重ね、現在は原則8日間(取り引きの種類によっては20日間)となっている。
期間内であれば、クーリングオフするのに、特に理由は必要ない。たとえば「気が変わった」だけでもいい。それで「無条件に」契約をなかったことにできる。
つまり業者に非がなくても認められている制度であって、「悪質な業者に対してのみ認められている」わけではない。また、商品の返送料や手数料などの費用を消費者が負担する必要もない。
消費者の強い味方であるこの制度だが、誤解が多いのがまず、「どんな取り引きでもクーリングオフできるわけではない」こと。2009年12月1日に特定商取引法が大幅に改正され、施行された(以下、改正法)こともあり、以下で詳細を見ていこう。
通信販売は、クーリングオフの対象外
まずは「そもそも論」から。
そもそも、なぜ「再考期間」が必要なのか? ――それは、消費者が商品購入やサービス(法律上は役務と呼ぶ)提供を受けるまでの間に、「よく考える時間がなかった」から。
つまりたとえば「押し売り」で不意打ちをくらって買っちゃった、とか。そういうときのために、この制度があるわけだ。
したがって、自ら出向いてお店に行き、なにか買ったりサービスを受けた場合では、クーリングオフは認められていない。
ここまでは理屈を考えれば、理解できるだろう。
ここでよく勘違いされるのが、「通信販売」。
一般的に通信販売は消費者が広告などを読んで、よく考えてから申し込みできるので、「不意打ち性がない」と考えられている。当然、クーリングオフが認められていないので、注意が必要だ。
通販の場合、「返品できるかどうか」も、業者側で決められる。商品注文時には「返品の可否」を確認しておくと、安心だ。
通販と返品の関係がはっきりした
今回の改正法で、通販の返品について、はっきり記述された。
具体的には、返品制度についてはっきり広告に表示してない場合、商品を受け取ってから8日以内であれば、買った人が送料を負担さえすれば、返品できるようになった。
クーリングオフがどのような取り引きに認められているのかは、特定商取引法で、下記のように定められている。
1 訪問販売(8日)
キャッチセールスやアポイントメント商法・催眠商法・ホームパーティ商法も含む
2 電話勧誘販売(8日)
3 特定継続的役務提供(8日)
エステティックサロン・語学教室・学習塾など・家庭教師・パソコン教室・結婚相手紹介サービス
4 連鎖販売取引(20日)
いわゆるマルチ商法
5 業務提供誘引販売取引(20日)
いわゆる内職商法やモニター商法
こうした方法で購入したりサービスを受けた場合は、無条件でクーリングオフできることを、まず覚えておこう。
法逃れの悪質業者を徹底排除する「改正法」
改正法の施行まで、訪問販売や電話勧誘販売によってクーリングオフできる商品/サービス/権利は、特定商取引法で約80種類が指定されていた。
それが、時代の進化とともに想定されていなかった商品が開発されたり、悪質な業者が指定外の商品に目をつけてクーリングオフを逃れる事例が相次いだ。
たとえば、2007年まで政令指定商品ではなかった「味噌」を高額で売りさばく訪問販売業者が各地で現れ、多くの相談が消費生活センターに持ち込まれた例など。
つまり「商品/サービスが指定されている」こと自体に問題が多かったわけだ。
そこで改正法では、政令指定商品/サービスを「原則廃止」し、「すべての商品/サービス」を、クーリングオフの対象とした。これには大きな意義がある。
では、あなたが具体的に「クーリングオフする」として、実際にどうすればいいのだろう。以下、やり方を解説していこう。
クーリングオフは簡易書留で
まず、口頭や電話では「言った、言わない」になるので、証拠が残る書面で行うのが望ましい。
書面の形式に規定はないが、はがきに契約の日付けや商品名、契約金額などを書いて、念のためコピーを取る。郵送料は余分にかかるが、普通郵便ではなく「簡易書留」にして業者へ送付する。
このときの「消印が契約日から8日以内」であれば、クーリングオフが成立する。
【はがきの書き方例】
契約解除通知書
下記の契約を解除します。
契約年月日 平成22年1月20日
商品名 ○○○○○○○○
契約金額 ¥123,000
販売会社名 ○○○○株式会社○○営業所
担当者 ○○○○様
・支払い済みの代金を返金してください。
・速やかに商品を引き取ってください。
平成22年1月25日
契約者住所 ○○市○○区○○丁目○番
契約者氏名 ○○○○
一度使用した商品でもクーリングオフができるか?
実際には、自分が当事者となった際、「クーリングオフできるかどうか」迷う場合も多い。以下、例を挙げて検討していこう。
●Aさんは、訪問販売で布団を買って一晩その布団で寝てみたが、やっぱり高額な気がして返品したくなった。クーリングオフは可能か?
一度使用してしまった商品は「クーリングオフできない」と思いがちだが、そんなことはない。契約してから8日以内なら、使用した布団でもクーリングオフは可能だ。
次の日、Aさんが訪問販売業者に「クーリングオフしたい」と連絡すると、「一度使用した布団はクーリングオフできません」と返事があった。それを信じて8日が過ぎてしまった場合はどうだろうか。
2004年の法律の改正で業者が嘘を言ったり脅したりしてクーリングオフを妨害したときには「クーリングオフ期間が始まらない」という規定ができた。
業者の嘘で8日を過ぎてしまった場合なら、クーリングオフ可能ということだ。
悪質な業者では、「この商品はクーリングオフできない」「一度使用した物はクーリングオフができない」と嘘を言ったり、「クーリングオフしてはならない」と脅しめいた発言でさせまいとする場合がある。
自分に知識がないと、その言葉を信じて諦めてしまうことにもなりかねない。しっかり対抗しよう。
工事が完了してしまってもクーリングオフできるか?
●台風の後、業者がBさん宅にやってきて、「屋根の瓦がずれている。この近所で何軒も同じ工事をしているので、今日なら安くできる」と言うので、屋根に上がって作業してもらった。後日、どこの家にも同じことを言って回っていたことがわかり、そもそも必要のない工事とも判明した。もう工事は終了しているが、クーリングオフできるか?
答えは、「工事が終了していてもクーリングオフは可能」、だ。
もし工事途中だった場合はどうか。その場合も、Bさんが望めば業者は無償で元通りに「原状回復」しなければならない。
業者側には、契約してから消費者に「再考する」期間を与えることが義務づけられているのがこの制度。クーリングオフ期間内に工事に取り掛かることは、クーリングオフされるかもしれない、ということを承知で工事したと見なされても仕方ないのだ。
生鮮食料品はクーリングオフできるか?
●Cさんは、カニ販売業者からの電話で「2万5000円を2万円に値引きする」と言われ、購入を決めた。後で家族に相談したところ「高いのではないか」と言われ、次の日に「クーリングオフしたい」と業者に連絡した。生鮮食料品はクーリングオフできるのか?
今まで生鮮食料品は政令指定商品ではなかったので、クーリングオフはできなかった。
今回の改正法で原則すべての商品が対象になったのわけだが、生鮮食料品のうち「政令に定めるもの」は、法律適用を除外することになっている。
とはいえ、2010年1月現在、政令で定められている商品はひとつもないので、現状ではカニもクーリングオフできると解釈できる。
もちろん、「権利があるから」と不満もないのにむやみにクーリングオフするのは問題。「常識を持って」判断しよう。
消耗品はクーリングオフできるか?
●Dさんは、路上で「アンケートに答えてください」と声を掛けられた。ついていくと「化粧品を契約するとエステを1回無料体験できる」と言われ、化粧品セットを契約してしまった。家でひとつ開封して使用したが、肌に合わないようなので解約したい。
訪問販売と電話勧誘販売、特定継続的役務提供で販売された消耗品については、クーリングオフできないものが指定されている(指定消耗品)ので注意が必要だ。
指定消耗品とはいったん開封してしまうと価値が著しく低下するもののことで、化粧品類や健康食品などが指定されているのだ。
ただし、複数個をセットで購入した場合には、開封した物についてはクーリングオフできないが未開封の物についてはできることになっている。
この例の場合、開封してしまった1個分についてはクーリングオフできないが、未開封分については可能と考えられる。
クーリングオフ適用が除外される取り引きとは?
今回の改正法で政令指定商品/サービスがなくなったので、原則すべての商品/サービスで適用されることになった。そのため、クーリングオフ適用が「除外される」取り引きが明記されたので、ここで覚えておこう。
●営業用に使用するために購入したもの。
●別の法律で同等の規制がされている取り引き。金融商品取引法・宅地建物取引法など。
●契約までに相当の期間が要すると思われるもの。自動車・自動車リース。
●3000円未満の現金取引。
●履行の全部が契約から短時間で行われるもの。たとえば路上で声を掛けられて入った飲食店の飲み食い、カラオケボックスなど。
●日常生活において必要不可欠であるサービスの提供。電気・都市ガスなど。
●突発的に発生し、速やかにサービスを提供する必要があるもの。葬儀など。
●政令で定められた指定消耗品。
●政令で定められた生鮮食料品。ただし、2010年1月現在において政令で定められた生鮮食料品はない。
困ったら「とにかく」消費生活センターへ!
私たちにとって、クーリングオフは、無条件で契約から離れられる、とても有利な制度だ。
ただし、自分自身に正確な知識がなければ、業者の言い分を信じてしまうことにもなりかねない。残念だが、消費者の交渉に応じてくれない悪質業者も世の中には多い。
クーリングオフできるかどうかわからないとき、業者との交渉で困ったときなどは、居住している自治体の消費生活センターで相談しよう。
クーリングオフ期間が過ぎていても簡単にあきらめないことだ。
クーリングオフ妨害や契約書類の不備などを理由に解約できる場合もある。
2010年1月12日から、消費者庁の消費者ホットライン0570-064-370(ゼロ・ゴー・ナナ・ゼロ 守ろうよ、みんなを)が開設されている。この番号に掛ければ、最寄りの消費生活センターを案内してくれるので、うまく使いこなそう。
「お金」見直し応援隊
厳しい社会情勢を受け、家庭の「お金」をどう考えていけばいいか提案を続けるファイナンシャルプランナーや税理士、社会保険労務士などの会。積極的な発言を続けている。
宮里惠子(みやさとけいこ)
ファイナンシャルプランナー CFP(R)、消費生活専門相談員
コンピューター販社でプログラマーおよびOAインストラクターとして勤務。家族の生命保険の見直しをきっかけに興味を持ち、FP資格を取得。来店型保険代理店勤務を経てフリーに。現在は生保見直しのほか教育費プランや住宅ローンアドバイスを雑誌・新聞・Webに執筆、セミナーも行っており、今後は個人相談にも力を入れる予定。
今後ますます「自分で身を守らなければならない」時代になる。「必要なところに必要な情報を届けたい」との思いでFPと消費生活専門相談員の両方の立場から、金銭教育とともに消費者教育の必要性を強く感じている。
所属団体は「日本FP協会東京支部」「WAFP関東(女性FPの会)「全国消費生活相談員協会」ほか。個人ブログはこちら。