2010年2月23日火曜日

「ひきこもりの社会復帰が無理だったら?」から始まる、「親子で生き残る」作戦はコレだ!

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「ひきこもりの社会復帰が無理だったら?」から始まる、「親子で生き残る」作戦はコレだ!

http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20100219/211733/

ファイナンシャルプランナー 畠中雅子

2010年 2月23日

行政の「ひきこもり支援」は「社会復帰」中心で、30代くらいで「打ち止め」

 個人的な仕事の話から入って恐縮だが、私は現在、「ひきこもり家族のライフプラン」という連続講座を開講している。受講者は、50代後半から70代の親世代。ひきこもっているお子さんは、30代から40代である。お子さんの男女比について、正確には把握できていないが、男性のほうが多いと思われる。

 ひきこもっているお子さんを「社会復帰させる」目的のプログラムは、行政にもある。対象年齢を分け、さまざまな支援をする。

 だが、行政の支援策は、30代半ばまでの(最近は40歳まで対象もあるらしいが)お子さんを対象にしたものが多い。一定年齢を過ぎると、支援対象から外されてしまう。

 それに何十年もひきこもっているお子さんについては、たとえ「社会的な復帰支援プログラム」が充実して60代まで対象になっても、社会復帰のハードルは年を重ねるほどに高くなるのが当然だ。

 社会復帰の可能性が低くなると、相談する場も減りがちになる。

 また、行政は「私的なお金に関するアドバイス」はしないのが一般的。とはいえ、親子とも年を重ねれば重ねるほど、不安が高まるのは「お子さんがひとり残された」場合の生活のこと。その多くは、お金の問題となる。

ひきこもりが「一生食べていく」講座が大反響

 そのような悩みを抱えたご家庭が増えていることもあって、私は以前から、ひきこもっているお子さんをお持ちのご家庭に対し、「親が持つ資産で、お子さんが一生食べていける方法」を提案してきた。具体的には、「この先、お子さんが一生働けなかったとしても、お子さん自身の生活設計が成り立つ方法」をアドバイスしている。

 ライフワークのつもりで細々と始めた活動であるが、最近では行政側から声が掛かり、「ひきこもり家族にアドバイスしている内容を教えてほしい」と、頼まれる機会も増えてきた。

 そのような活動の中で、「まとまった時間を取り、ひきこもり家族に向けて生活設計アドバイスをしてほしい」という依頼を受け、現在、初めての連続講座を担当しているわけである。

「ひきこもり家族のライフプラン」は有料講座のため、開講前は「どのくらいの人数が集まるだろうか?」と心配していたが、開講日の1か月以上も前に定員が埋まってしまった。そのため当初の募集定員を変更し、会場が一杯になるまで受講者を引き受けることにした。にもかかわらず、多数のキャンセル待ちが出てしまったのが現状である。

 ひきこもりのお子さんの数はわからないが、家族という単位に置き換えると、その人数は軽く100万人を超えるはず。

 気の遠くなるような人数だと感じているが、私自身の仕事としても、キャンセル待ちをされている方々に対して、今後、どのようなフォローをしていくべきか、新たな課題が発生してしまったところでもある。

 というわけで、今回は少し、講座で話している内容をご紹介する。ひきこもりを抱えたご家族の一助になればと願うばかりだ。

「一生働けない」という「最悪の状態」でも「生き残れる」プランを考える

「ひきこもり家族のライフプラン」のテーマで話をする際、「お子さんが一生働けない前提で、『最悪のライフプラン』を考えていきます」と伝えている。

「最悪の状態」から考えていくため、私が提案するプランを「サバイバルプラン」と呼ぶ人たちもいる。

「お子さんの状態が改善して、収入を得られるようになれば、それはお子さんのほうにも、親御さんのほうにも選択肢が増すことになります。お子さんが働けば、当然生活水準は豊かになりますし、住み替え先についての選択の幅も広がります。良いケースはあとで考えればいいので、まずは現状が続くと仮定した最悪のプランから考えていきます」と、あらかじめ断ってしまうわけである。

 最悪のライフプランという言葉を耳にして、落胆の表情を浮かべる方も少なくないが、「わが子もいつか、立ち直って自立するはず」といった夢を見ていられる時間的な余裕が少ない現実を自覚してもらうためでもある。

 同時に、「最悪のライフプラン」であっても、親の資産でお子さんが一生食べていけるプランを立てられるケースは多いのだと伝えると、親側も現実を受け止めやすくなるようだ。

「働かない」「働けない」なら、公的年金が「どうしても必要」

 お子さんが働けない前提でプランを作成していくため、親が亡くなった後の、お子さんの収入をどのように確保するか。当然だが、それが欠かせない課題となる。

 お子さんの収入については、将来、受け取れるのが「国民年金(老齢基礎年金)」なのか、「障害年金」なのか、あるいは無年金なのかによっても、プランは異なる。

 国民年金や障害年金を受給していれば、不足しそうな生活費の確保を検討すればよい。だが、実際には国民年金の保険料を滞納しているご家庭も少なくない。滞納しているご家庭には、免除申請、あるいは一部納付の手続きをしてもらうように促している。

 公的年金から何らかの受給がないと、親が残さなければならない資産額がかなり増えてしまうからだ。親が遺す資産を増やすよりも、国民年金に加入して、全額免除を受けたり一部納付してもらうほうが、生活設計は立てやすくなる。

 国民年金の保険料を継続して払ったり、免除申請をきちんと実行していないと、老後の年金を受給できないだけでなく、お子さんがこの先、精神科などで病気と診断されても、障害年金を受け取れない。

 つまり老後の生活設計どころか、老いる前の生活設計についてもリスクが発生してしまう。

「生活保護を受給させるから」では「破綻」する

 中には、「将来は生活保護を受給させるつもりだから、国民年金は払わない」と主張する方もいる。

 しかし、今まで私が相談を受けてきたご家庭、あるいは講座を受講しているご家庭では、親側がそれなりの資産を持っているケースがほとんど。お子さんが無収入だとしても、親が遺した資産が底を尽きかけるまで、生活保護の対象にはなりにくい。

 生活保護にこだわる場合、「親の資産が底を尽く」という恐怖体験を、お子さんがしなければならない。それにそもそも「生活保護の申請をする」だけのことでも、「やりたくない」あるいは「やれない」お子さんがいる。

「結果的に生活保護を申請する」ケースはもちろんあるだろう。そうだとしても、親の資産がある場合は、生活保護にこだわりすぎず、まずは公的年金の大切さを実感してもらう。これが、プラン作成の過程では大切なポイントになっている。

 少し話はそれるが、ひきこもり家族から相談を受けていて気づいたのは、すでに障害年金を受給しているお子さんが少なくない現実だ。

 ひきこもりのお子さんに対し、世の中には「働かないのは怠けているから」という指摘もあるが、「働かない」のでなく「働けない」お子さんも多数存在する。ところが、障害年金を受給しているお子さんが増えていることは、一般的には知られていないようだ。

「家賃を払うかどうか」で、お子さんの必要生活費に1000万円以上の「差」

 ひきこもりのお子さんを抱えているご家庭では、お子さんの生活費が親の生活費の中に組み込まれているため、お子さんがひとり残された場合「どのくらいの生活費が掛かる」か、想像したことがないご家庭が多い。

 ひきこもっているお子さんが、将来ひとりで暮らさなければならなくなった場合にどのくらい生活費が掛かるか、ざっくりとだが見積もってみた。家計簿の上の表は住居費が掛からないケースで、下の表は住居費が掛かるケースである。

ひきこもりの「サバイバル家計簿」 家賃が不要の場合

このほかに、固定資産税、住宅の補修費用、町内会費、入院した場合の病気の治療費などが必要となる。

ひきこもりの「サバイバル家計簿」 家賃が必要な場合

このほかに、更新料や入院した場合の治療費なども必要となる。

「ひきこもりの住まい」をどのように遺すか

 ふたつの表を見てもわかる通り、総額に大きな影響を与えるのは「住居費」だ。家賃が必要か不要かで、親が事前に遺したい生活費に、1500万円から2000万円くらいの差が出てしまう。

 そこで、お子さんの住居の確保については、どのご家庭にも、じっくり検討し、早めに実行してもらうよう促している。

 たとえば、家の建て替えやマンションへの住み替えをする。

 長年住んでいる一戸建ての場合、古い家が残されると修繕が大変だし、光熱費もかさみがち。お子さんがひとり残されてから建て替えするのも難しいはず。そのため、親が元気なうちに、建て替えを促すわけである。

 望ましいのは、賃貸併用住宅に建て替え、家賃収入を得る方法。この方法が実行できれば、親が亡くなった後は、ひきこもっているお子さんを「大家」にできる。家賃収入が得られれば、公的年金の不足分を補える。

 とはいえ、お子さん自身で家賃の集金などは難しいのが現状なため、賃貸管理は不動産管理会社に依頼する必要がある。

不動産管理会社の「選び方」

 賃貸併用住宅にした場合、不動産の管理会社を選ぶポイントについても、お子さんの事情を理解してくれる会社を探すのが理想。担当者が年中入れ替わるような大きな管理会社よりも、親子で長年、地元の不動産を管理している会社を探してみては、などとアドバイスしている。

 家の建て替えは、誰が行っても重労働である。ひきこもりのお子さんにとって、家の建て替えによる一時的な転居や、新しい住居への住み替えで、精神状態が悪化する可能性もある。住み替えによる精神状態の変化についての配慮は、欠かせない課題となっている。

 土地付きの家に住んでいて、建て替えをしたいが、建て替えするほどの資金の余裕はないという場合。この場合、金融商品型リバースモーゲージを利用し、建て替え資金を捻出するプランを検討するケースもある。

 実際には、東京スター銀行の「リバースモーゲージ・充実人生」(以下、充実人生)の利用を勧めるケースが多い。要は、土地を担保に融資を受け、建て替え資金を捻出する方法だ。

 東京スター銀行の場合、ローンに「預金連動型」のシステムを利用することも可能。借金をしても預金があれば、預金残高(普通預金の残高)と同額までは、利息が掛からないシステムである。

 そこで、「充実人生」を利用する場合は、東京スター銀行にできるだけ預金を移してもらうように促している。預金額が増えれば、実質的に利息がかかる借金額を減らせるからだ。建て替え後に入ってくる家賃収入も、東京スター銀行の普通預金口座に入金してもらい、親が生存中は預金を増やすことに力を注ぐ。

「ひきこもりを大家に」作戦

 家賃収入を預金に回せると、利息の掛かる借金は毎月減っていくし、親が生きている間に預金を増やすことも可能。親が亡くなった後も、担保とした土地を銀行に渡さず、預金で借金を返済できるようなプランを立てるのが基本。

 土地を銀行に渡してしまうと、お子さんの住まいを新たに確保しなければならない。

 リバースモーゲージを利用する場合は、借金する金額と得られそうな家賃額を想定し、将来収支を計算してみる必要がある。さらに、親の資産で借金を完済できる程度の借り入れに抑えることも重要。

 そのため、この建て替えプランは、親が比較的若い、たとえば60代前半などのケースでお勧めしている。

「住まい」については、お子さんが住む場所の確保をアドバイスするだけでなく、親の住み替えも具体的に検討しておくことをお勧めしている。親側に介護が必要になるなど、住み替えが必要になる可能性があるからである。

 親側の住み替えについて考える際、高齢者施設への住み替えに掛かる費用を説明するが、「子どもの心配ばかりしていて、自分が介護になったことなど、想像したこともなかった」と、言われる機会が多い。

 高齢者施設を説明すると、よく質問されるのが「親子で一緒に入居できる施設はないか?」という内容。

親が介護される年代になったら、どうすべきか

「一緒に入居したい」という気持ちは、良くわかる。

 実際に、親子2人で入居可能な高齢者施設もある。ただし、資金的なハードルが高くなる。

 親子で一緒に入所のプランは、かなりの資産を持っていないと、資金ショートする可能性があることを伝え、別々に住むプランを中心に検討するのが「現実的」とアドバイスしている。

 一例として検討できるのは、親側に介護が発生した場合は、自宅を売却してお子さん用に小さなマンションを購入し、親側は介護専用型の有料老人ホームに住み替えるプランである。

 介護専用型の高齢者施設であれば、入所一時金を300~500万円程度準備できれば、かなりの数の施設を候補に挙げられる。

「特定施設入居者生活介護」の指定を持っている施設であれば、公的介護保険の利用限度額を超えた介護であっても、一定額の負担で24時間、介護が受けられる。

 親子で別々に住むプランを立てたほうが、一緒に住むプランよりも資金的に可能なケースが多いため、保有資産ごとに可能な住み替え方を模索している。

実はとっても重要な、「ひきこもり」と「兄弟姉妹」との関係

 ところで、お金とは直接関係ないように思えるかもしれないが、ひきこもりのお子さんの生活設計を立てる際、見逃せないチェックポイントが「兄弟姉妹との関係」だ。

 ひきこもりのお子さんがいるご家庭では、兄弟姉妹の仲が険悪になっているケースが少なくないからだ。

 ひきこもっているお子さんは、社会に出ている他の兄弟姉妹から「怠けている」とか「お母さんたちが甘い」「あの子にばかり、お金をあげている」などと攻められていることも多い。どちらの気持ちもわかる。

 このような場合、親が亡くなった後、兄弟姉妹が後見人を引き受けたがらないケースがある。第三者の成年後見人を確保するか、確保するなら、その資金はどのように捻出するかといった検討が必要になってくる。

 加えて、相続対策もしておかなければならない。

 相続対策は、資産の多寡に関わらず、必要である。

「兄弟姉妹の仲は良いから相続ではもめない」と思うのは間違い。兄弟姉妹に配偶者がいれば、相続時にもめる可能性はいくらでもある。

ひきこもりの「コミュニケーション能力」の程度を見抜く

 ひきこもり家族が考えるべき相続対策は、「節税」ではない。ひきこもっているお子さんに、できるだけ多くの資産を遺す方法に限る。

 ひきこもりのお子さんが1人で遺された後も「暮らしていける」だけの資産を、きちんと受け取れるようにする。そのため、保険を活用するケースもある。

 保険を活用する場合、毎年一定額ずつ保険料を支払ってもらって、保険金や年金を、ひきこもっているお子さんに遺すわけである。

 これなら兄弟姉妹の仲に決定的な悪影響は出にくい。

 今回は、ひきこもり家族へアドバイスしている内容について、いくつか取り上げてご紹介してきた。

 ただ、具体的な方法を実行する前に、忘れてはならない確認事項がある。

 それは、「お子さん自身のコミュニケーション能力」について。これが極めて重要なのだ。「どのようなことができて」「どのようなことはできない」のか、しっかりチェックしておく必要がある。

フリーターやニートでも応用できる、「サバイバルプラン」検討

 たとえば「銀行に出向いて、預金の引き出しなどはできるか」、「民生委員の人と会って、いろいろな相談事ができるのか」、「食材の買い出しに行けるのか、自分の食事が作れるのか」などなど。

 対人能力や生活能力によって、生活設計の立て方も変化するからである。

 最後に。今回の原稿タイトルには「ひきこもり家族」という言葉を使ったが、この言葉は「フリーター家族」や「ニート家族」に置き換えてもらっても良いと思う。

「フリーターは働いている。ひきこもりと一緒にしないで」と言われることもあるが、あくまでも「最悪想定のライフプランを立ててみる」のが趣旨である。フリーターやニートを抱える家族でも、基本的な考え方は応用できる。

 フリーターでもニートでも、もちろんひきこもりでも、きちんと働ければ、ライフプランは自然に改善する。最悪想定のライフプランを実行していたなら、その分は「余裕」となって返ってくる。

 どのような形であれ、できるだけ早く自立することを願いながらも「自立できていない」お子さんがいるご家庭では、親の資産でお子さんが食べていくためのサバイバルプランを、一度考えてみたほうがいい。考えてみないことには、「その後、どうするか」を検討もできない。1日も早く、サバイバルプランを立ててみていただきたい。

「お金」見直し応援隊
厳しい社会情勢を受け、家庭の「お金」をどう考えていけばいいか提案を続けるファイナンシャルプランナーや税理士、社会保険労務士などの会。積極的な発言を続けている。

畠中 雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー、生活経済ジャーナリスト
3児の母。大学在学中にフリーライターとなり、女性誌、週刊誌、旅行誌などで活躍。長女出産の翌年(1992年)、ファイナンシャルプランナーになる。新聞・雑誌・イン ターネットなどで連載多数やレギュラー執筆記事を持ち、セミナー講師、講演、個人のマネー相談、金融関連調査、アドバイザー業務等を手掛ける。得意分野は「生活設計の全般的なプラン作成」「教育資金設計」「生命保険の加入&見直し」「住宅ローン設計&見直し」など。
著書に「教育貧民」(宝島社)、「最新版 ネコでもわかる住宅ローン入門の入門」(中経出版)、「なぜかいつも幸せな人のお金のルール」(幻冬舎)、「ミリオネーゼのマネー術」(ディスカバートゥエンティワン)、「お金のきほん」(オレンジページ社)、「やさしいおかね学」(別冊エッセ)、「お金オンチ貯金オンチがなおる35の知恵」(講談社+α文庫)、「ネコでもわかる生命保険入門の入門」(中経出版)、「ネコでもわかる住宅ローン入門の入門」(中経出版・共著)、「ライフスタイル別家計の方程式」(NHK出版)、「家庭の財政学」(NTT出版・監修)、「貯蓄の大原則」(永岡書店・監修)、「節約の大原則」(永岡書店・監修)、「私のお金をふやしたい」(日本経済新聞社)、「子どもにかかる教育資金を貯める法」(中経出版)、「教育資金とこども保険の本」(主婦の友社)、「『超』高齢化時代のライフプラン」(経済法令研究会)。