2009年12月13日日曜日

川崎病「複数犯」新しい説-「容疑者」細菌11種類

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川崎病 新たに「複数犯」説
「容疑者」細菌11種類 「主犯」不明

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「見たことのない症状だった」。川崎病の患者と出会った時を振り返る川崎富作さん

 乳幼児の唇や舌、皮膚などが赤く腫れ、心臓に重い後遺症を残すこともある川崎病。

 原因を巡って過去40年間、様々な説が浮かんでは否定された。今年11月、順天堂大の研究チームが、複数細菌の同時感染による合併症という新説を発表して注目されたが、川崎病の謎は解明されつつあるのだろうか。(今津博文)

 1961年1月、東京・渋谷の日赤中央病院(現・日赤医療センター)の小児科医だった川崎富作さん(84)は、入院した4歳男児の症状に当惑した。39度以上の高熱で、目は真っ赤。舌がイチゴのように腫れ、体中に赤い斑(まだら)状の発疹(ほっしん)――。初めて見る症状だった。翌年2月にも全く同症状の男児が入院。「(医学の)教科書に載っていない病気だと直感した」と振り返る。

 川崎さんは67年に「急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群」として論文発表した。その後、心臓の冠動脈に瘤(こぶ)ができ、突然死することがあると判明。海外でも報告が相次ぎ、Kawasaki Disease(川崎病)と呼ばれるようになった。

 70年代前半は発症者の1~2%が死亡したが、今では0・05%以下だ。血液製剤の免疫グロブリンの大量投与や、血栓を抑えるアスピリンの投与が有効とわかったからだ。だが、患者の5~10%には免疫グロブリンの効果がなく、後遺症が残りやすいとされる。

 原因を巡って研究者たちを悩ませているのは、この病気の特徴が多様で、つかみどころがないことだ。

 日本人や日系アメリカ人、韓国人など東アジア系の小児に多く、遺伝的な要因がありそうだ。82年や86年には全国的に流行。感染症と考えられるが、ほとんどの抗生物質が効かない。

 流行時期もばらばら。日本では1月に患者数が最も多くなるが、台湾は5~6月、韓国では7月に多いなど、地域によって異なる。

 患者の体内で強い炎症が起きることから、免疫をつかさどるTリンパ球を数十倍~100倍に増やす「スーパー抗原」という毒素が注目され、2003年にスーパー抗原を出す溶連菌が原因という説が出たが、決定打にはならなかった。

 原因は単一の病原体ではなく、いくつもの細菌がかかわる「複数犯」ではないか。そう主張するのが、順天堂大の永田智(さとる)・准教授らだ。今年11月、小腸に常在するエンテロバクターなどの桿(かん)菌と、ブドウ球菌や溶連菌の仲間による複合感染が原因との説を発表した。

 ブドウ球菌や溶連菌がスーパー抗原を出して高熱や腫れを引き起こす。桿菌は小腸の粘膜から体内に侵入し、血管内皮細胞を刺激して、血管の内側にHSP60というたんぱく質が沈着。これが免疫細胞の攻撃を受け、動脈瘤(りゅう)の原因になる、という。19人の患者から計11種類の細菌を「容疑者」として見つけ出した。

 日本人に患者が多いのは、免疫細胞が、欧米人やアフリカの人の2~7倍もHSP60を攻撃しやすいからという。腸内細菌は薬剤耐性を獲得している種類が多く、抗生物質がほとんど効かない理由も説明がつきそうだ。

 研究チームの山城雄一郎特任教授は「細菌の組み合わせによって動脈瘤ができやすい場合と、軽症で済む場合があるのだろう」と推測。見分けがつけば、より効果的な治療が可能になる。

 ただ、この説にも疑問は残る。発症の引き金を引く「主犯」がわからないのだ。

 永田准教授は「常在菌や毒性が弱いブドウ球菌などは、詳しい性質が不明な種類も多い。さらに多くの患者について調べる必要がある」と話している。

 川崎病 4歳以下の乳幼児を中心に発症。冠動脈に瘤ができる後遺症は、回復後も心筋梗塞(こうそく)などの原因となる。〈1〉発熱が5日以上続く〈2〉手足が硬くむくみ指先が赤くなる〈3〉色々な形や大きさの発疹〈4〉両目の充血〈5〉唇や口の粘膜が赤く、舌はイチゴ状に腫れる〈6〉首のリンパ節が腫れる――といった症状が特徴。胆のうの腫れや肝障害が見られることもある。

(2009年12月13日 読売新聞)

用語解説
抗生物質 心筋梗塞 免疫グロブリン

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