NHKニュースによると、この治る認知症患者は20万人いるそうだ。
ただ専門医でも知っているのは半分から3分の1、内科医など別の科の医師だとほとんど知らないそうだ。
なぜかというと知られたのがつい最近のことで、以前は研究者でも極めて珍しい事例と思われていたからだそうだ。
今後、検査・診断が必要になってくる疾患と思われる。
特定疾患情報 >> 正常圧水頭症
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正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)
http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/056.htm研究班名簿
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1. はじめに
わが国における認知症(痴呆)患者は現在約250万人に迫るとされ、今後更に増え続けるといわれております。どのような原因にしろ、「認知症になると徐々に進行し一生治らない」と思われがちですが、じつは手術で治療可能な認知症があります。その一つである最近世界的に特に注目されている「特発性正常圧水頭症」について説明します。
精神活動の低下(痴呆症状)、歩行障害、尿失禁を呈する高齢者のうち、著明な脳室拡大を認めるにもかかわらず、腰椎穿刺で測定した脳脊髄圧は200mmH2O以下と正常範囲であり、しかし、髄液短絡術(シャント手術)を行うと上記の症状が著明に改善する患者さんがいます。このような患者さんを、正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus、以下NPHと略す)と呼びます。
2. 発生機序
私たちの頭の中には「髄液」と呼ばれる液体がいつも流れています。髄液は、脳の中心にある脳室からしみ出し、脳と脊髄の周りをひと巡りすると、静脈に吸収されていきます。ところが、加齢に関わる何らかの原因により髄液の流れや吸収が妨げられ、脳室に髄液がたまると脳室が拡大し、特発性正常圧水頭症といわれる病気を引き起こします。原因不明のものを特発性NPH(以下iNPH)、原因が明らかなものを続発性NPHと呼びます。続発性NPHの原因としては、くも膜下出血、頭部外傷、髄膜炎などがあげられます。
3. 頻度
NPHの正確な発生頻度は明らかではありませんが、痴呆症と診断された患者さんの5~6%が特発性NPHであると考えられています。特発性NPHの好発年齢は、おおむね60歳代以降であり、70歳代に多く確認されます。発生頻度にかんしてはやや男性に多いようです。
4. 症状
NPHでは、精神活動の低下(痴呆)、歩行障害、尿失禁の三つが主症状(三徴候)とされています。記憶障害がひどくなるアルツハイマー病の症状とは大きく異なり、iNPHの認知症状では、集中力や意欲、自発性が低下し、一日中ボッーとしている、呼びかけに対して反応が悪くなるといったことがみられます。このような症状が比較的短時間に現れた場合は、iNPHである可能性が強く疑われます。また、歩行障害では、足が上げづらくなり小股でよちよち歩く、Uターンするときに足元がふらつく、うまく止まれないなどの特徴的な症状が現れます。とくにiNPHの初期には、このような歩行障害が出やすいといわれています。さらに、トイレが非常に近くなる頻尿の症状や、尿意が我慢できなくなり失禁するようなことも起こってきます。
日本正常圧水頭症研究会より「特発性正常圧水頭症診断ガイドライン」が出されており、重症度を次のように分類しております。皆さんは、如何でしょうか?
歩行障害
何らかの歩行障害があるか、どの程度の歩行障害なのか
0 正常
1 ふらつき、歩行障害の自覚のみ
2 歩行障害を認めるが補助器具(杖、手すり、歩行器)なしで自立歩行可能
3 補助器具や介助がなければ歩行不能
4 歩行不能
認知症
認知症があるか、どの程度の認知症なのか
0 正常
1 注意・記憶障害の自覚のみ
2 注意・記憶障害を認めるが、時間・場所の見当識は良好
3 時間・場所の見当識障害を認める
4 状況に対する見当識は全くない。または意味ある会話が成立しない
尿失禁
尿失禁があるか、どの程度の尿失禁か
0 正常
1 頻尿または尿意切迫
2 時折の失禁(1-3回/週)以上
3 頻回の失禁(1回/日)以上
4 膀胱機能のコントロールがほとんどまたは全く不能
※上述の各重症度スコアでの症状の表現が実際の患者にうまくあてはまらない場合は、
0=正常、1=疑いがある、2=軽度、3=中等度、4=重症、をスコアの基本にして判定する。
しかし、これらの症状は、いずれも年をとると出現しやすいもので、しばしば見落とされたり、他の原因による認知症と間違われたりすることがあります。つまり、手術すれば治るにもかかわらず、多くの人が治療されないまま、放置されている現状があるのです。
したがって、3大症状のうち一つでも症状が現れ、その原因がはっきりしない場合、あるいは、すでにアルツハイマー病やパーキンソン病であると診断され、治療を行っている人でも、症状がいっこうに改善しない場合はiNPHを疑い、神経内科、脳神経外科を受診し、専門医にご相談することをお進めします。
5. 診断
上記の三徴候のいずれか一つ、あるいは複数を認め、頭部CTやMRIで脳室の拡大が確認されれば、NPHを疑うことになります。ただし、老人性痴呆でも脳萎縮にともなって脳室が拡大してくるので、NPHとの鑑別が問題になります。そこで、腰椎穿刺により約20~40mlの髄液を排除して、症状の改善がするかどうかを試す検査(髄液排除試験)を行います。入院の必要はなく、外来で安全にできる検査です。髄液タップテストの翌日以降、症状の改善がみられる場合は、手術が有効であると診断されます。髄液排除により症状が改善した患者さんでは、シャント手術の有効率が極めて高いといえます。その他、RI脳槽造影・CT脳槽造影、頭蓋内圧測定、脳血流測定などを行うこともあります。これらの画像検査では「髄液により脳が圧迫されているかどうか」、その状態を確認するほか、髄液の循環を妨げている原因についても観察します。また、同時に他の脳の病気がないことも確かめます。
6. 治療法
iNPHの治療では、髄液の流れをよくする「髄液シャント術」と呼ばれる手術が行われます。これは、流れの悪くなった髄液通路の替わりにカテーテル(管)を体内に埋め込み、そこから脳室に過剰にたまっていた髄液を排除することによって、脳室のサイズを元に戻し、脳の機能を正常化させる治療法です。
髄液シャント術の方法には、(1)脳室-腹腔シャント、(2)脳室-心房シャント、(3)腰椎-腹腔シャント(図参照)があり、わが国においては、脳室-腹腔シャントがいちばん多く行われています。頭蓋骨に小さな穴をあけ、脳室から腹腔までカテーテルを挿入する脳室-腹腔シャント術は一見すると大手術のように思えますが、脳外科分野の中でも比較的かんたんで安全な手術で、30分~1時間程度で終了するものです。ただし、シャント手術が有効な患者さんであっても、発病から長期間経過してしまうと、治療効果を期待することは難しいとされています。症状の改善を得るためには、ある一定量の髄液を排出させる必要がありますが、髄液の排出が過剰になると硬膜下水腫や血腫が発生します。このような合併症を防ぐために、最近では体外から磁石を使って圧を変更することができる圧可変式バブルや、より積極的に髄液の過剰排泄を防止する抗サイフォン機構付きのバルブなどを用いることが多くなっています。
7. 予後
適切な手術適応を守る事により、特発性NPHの80~90%以上の患者さんで、術後になんらかの症状改善がみられます。髄液シャント術による3大症状の改善率は、歩行障害が9割前後、認知症と尿失禁が5割前後と、高い効果がみられます。とくに、歩行障害では劇的な改善を示す例が少なくありません。また、最近は治療の技術が進歩し、あらかじめ「可変式差圧バルブ」と呼ばれる機器を埋め込んでおくことで、体外より髄液圧を変更できるようになりました。つまり、患者さんの状況に合わせて、脳室から流れ出る髄液量を適切に調節できるため、髄液シャント術による効果が長く持続できるようになったのです。
このような治療により、高齢者のQOL(生活の質)が大幅に改善されるだけでなく、家族の介護も楽になるというメリットがあります。
8. おわりに
シャント手術によるNPH の治療成績を向上させるためには、早期診断、早期治療が必要です。上記三徴候のいずれか一つでもあれば、NPHを疑って専門医の診察を受けることが重要です。。
情報提供者
研究班名 神経・筋疾患調査研究班(難治性水頭症)
情報更新日 平成20年12月30日
行政(厚生労働省)の動き
治験情報(難病医学研究財団HP)
財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター