2010年1月8日金曜日

文系・大卒・30歳以上がクビに、2010年労働事情

2010年01月08日 08時00分 UPDATE コラム

吉田典史の時事日想:
「文系・大卒・30歳以上」がクビに――ベストセラーの著者に聞く2010年労働事情 (1/3)

http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1001/08/news002.html

リーマンショック後、中高年のリストラや派遣切りなどが注目を集めたが、30代の正社員は“安泰”といえるのだろうか。『「文系・大卒・30歳以上」がクビになる――大失業時代を生き抜く発想法』の著者・深田和範氏に聞いたところ、「30代もリストラの対象になる」という。その理由は……?

[吉田典史,Business Media 誠]
著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)など。ブログ「吉田典史の編集部」

『「文系・大卒・30歳以上」がクビになる――大失業時代を生き抜く発想法』 (新潮新書)

 新たな年が始まった。会社員にとって、厳しい年になるのではないだろうか。特に30代の人は、“ぶ厚く高い壁”にぶつかるかもしれない。

 2009年の暮れ、人事コンサルタントの深田和範氏にお会いし、今後のリストラについて話をうかがった。ベストセラーにもなった『「文系・大卒・30歳以上」がクビになる――大失業時代を生き抜く発想法』 (新潮新書) の著者である。この本をひと言で言えば「今後は30代の正社員もリストラの対象になりうる」といった内容だ。

 時事日想でも何度か触れたが、正社員を解雇にすることは法的に難しい(関連記事)。現に多くの会社は非正社員の労働契約は解除するが、正社員の雇用にはなかなか踏み込まない。だが、これからの時代は違う。多くの企業の現場を知る深田氏は、そのあたりを見抜いていた。

 「一部の大企業では、正社員がリストラの対象になっていますね。決算記事を見ると、『固定費の削減が功を奏した』といった意味合いのことが書かれてあります。必ずしも“固定費の削減=正社員のリストラ”とは言い切れないものですが、正社員を対象に希望退職を行った会社はあります」

 さらに、こう踏み込む。

 「今後は、そのターゲットが文系・大卒・30歳以上に広がる可能性があります。人事部も例外でなく、これからはリストラされる側になりえますよ。明らかに雇用過剰になりつつあるのです。人員削減の対象が、40~50代だけというわけにはいかないでしょう」

 なぜ、企業はここまでして社員を減らそうとするのだろうか。深田氏は、こう分析する。

 「この不況により、企業は派遣社員の労働契約を解除するいわゆる“派遣切り”をしたり、新卒や中途の採用者数を減らしました。実はこれらは、生産・販売量の減少に応じて変動費を調整し、将来的に発生する固定費の増加分を減らしただけのこと。つまり、現時点で重くなりすぎている固定費については、何もしてこなかったのです。これでは、企業が抱えている本質的な問題を解決したことにはなりません」

 雇用過剰となっている正社員の人件費によって、固定費の増加が引き起こされた。そして、この過重な固定費負担のために、多くの日本企業が収益を生み出せない経営体質に陥ってしまっている。これこそが、本質的な問題なのだ。

 「このような脆弱(ぜいじゃく)な経営体質を変えることなく、政府の景気対策や雇用調整助成金といった、いわば“鎮痛剤”に頼っているから、いつまでたっても企業業績が回復しないのです。鎮痛剤の効き目もそろそろなくなってきます。企業はいよいよ、本腰を入れざるを得なくなるでしょう。その1つが、30代をも視野に入れたリストラです」

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無為無策のあおりを受ける20~30代
 深田氏は、2008年秋以降の世界同時不況は、日本企業の2つの隠れみのを吹き飛ばしてしまったと見ている。隠れ蓑の1つは、欧米の景気がよかったこと。2つめは、非正社員を雇うことで人件費を抑え込んだこと。これらにより、国際競争力を持ち合わせていなくとも、経営はなんとか成り立っていたというのだ。

 このあたりは、私も同感である。これは私のとらえ方だが、日本企業の多くはすでにビジネスモデルが破たんしている。つまり、安定的に売り上げを稼ぎ出し、それをすべての社員で分配していくことができない。その兆しは山一証券や北海道拓殖銀行が経営破たんした、1990年代後半に見えていた。あのときが、実は日本企業の大きな分岐点だった。経営者や経済界は、戦後のビジネスモデルを大きく変えるようにかじを切るべきだったのだ。政府与党もそれを強力に後押ししたり、政策を打ち出し、誘導することが必要だった。

 しかし、それらをすることなく、安易なリストラなどで問題を先送りした。それがいま、大きなツケとなって現れている。問題は、このようなビジネスモデルだけではない。正社員の極端とも言える法的な保護など、労働法も時代の変化についていっていないのだ。

 例えば、解雇要件を緩めるならば、会社員が会社と争うことができる態勢を整えることも必要である。会社がリストラする際の武器となっている配置転換のあり方にもメスを入れて(関連記事)、労使双方にとって公平なものにしないといけない。さらに、解雇された社員には子どもがいるかもしれない。そのことを踏まえ、小中学校から大学までの学費などについて何らかの支援も矢継ぎ早にするべきだった。これらが整ってこそ、正社員の解雇要件を緩めることができる。

 ところが、相変わらず、ビジネスモデルや労働法などは、1990年代後半までのものなのだ。本来、政府や企業はこのようなところにこそ、踏み込んでいくべきだった。そうすれば、非正社員と正社員の格差はもう少し健全な姿になっていた。企業の活力もある程度は、維持できたに違いない。それが、国や地方自治体の財政にもよい影響を与えたはずだ。少なくとも、こんなに早く沈滞期に入らなかったのではないか、と私は思う。

 この無為無策のあおりをもろに受けているのが、いまの20~30代である。そして、就職活動を控える大学生であり、その親たちだ。

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リストラはインフルエンザのように広まる
 しかし、なぜか多くの政治家や有識者はこの問題を指摘しない。これでは「政権が変わっても変化なし」と批判を受けても仕方あるまい。深田氏は、このようなことも話していた。30代の人がこれを読むと、思い当たるフシがあるのではないだろうか。

 「いまの企業はマネジメントにのみ力を入れて、新たなビジネスを始める気概をなくしています。その理由の1つには、1990年代の不況を生き延びた人たち、つまり50~60代の経営者や役員、管理職などの多くが起業家タイプではなく、管理者タイプであることもあるでしょう」

 さらに今後のリストラは、インフルエンザのように広まっていくと捉える。

 「リストラは“伝染”するかのように広まっていくでしょう。伝染とは、特定の業界だけでなく、職種でのリストラも増えてくることを意味します。そしてこれまで控えてきた以上、リストラは爆発するように一気に広がる可能性がありますね。家族を抱え込んだ正社員が対象になる以上、家計への影響は避けられないでしょう」

 だが、深田氏は悲観的には捉えない。むしろ、これから時代の転換期に入ることを冷静に見つめている。そして「新しい成長の芽はきっと出てくるはず」とも繰り返し話していた。著書『「文系・大卒・30歳以上」がクビになる――大失業時代を生き抜く発想法』では、そのような会社員の生き方にも言及している。

 これから、一段と厳しい時代が始まる。だが、閉塞した状況を変える大きなチャンスと見ることもできる。今年は、そのあたりにも触れていきたい。

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