読書も仕事も、効率より効果を重んじよ (1/2)
http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1001/07/news011.html昨今、薄く、読みやすいビジネス書がベストセラーになっているが、ビジネスの世界で生き残るなら骨太で「分厚い」本に挑戦すべきだ。
土井英司(ビジネス書評家),ITmedia2010年01月07日 08時15分 更新
最近は効率ばかりを追いかける風潮があるが、大切なのは、効率ではなく「効果」だ。このところのビジネス書ベストセラーを見ていると、知識がなくても読める自己啓発書や、薄い本、読みやすい本ばかりが目につく。ビジネスの成否はコストに対するリターンで測られるべきなのに、コスト面ばかりを気にして、肝心のリターンには関心がないようだ。
正しい価値とは
その部類の本が述べているのは、いかに時間を節約するかなど効率を高める話ばかりで、効果についてはまったくといっていいほど触れていない。だが、情報産業の時代に求められるのは効果なのだ。
これは少し考えてみればすぐに理解できる。仮にあなたが1000円の書籍を売って10億円の売り上げを立てようと思ったとしよう。100万部売れる本を作れば1冊で済むところを、1万部しか売れない本であれば100冊作らなければならないのだ。売り上げは同じだがコストは後者の方が100倍高くつく。効率を上げてたくさんの本を作れる人材よりも、効果を重んじて100万部売れる本を作れる人材の方が重宝されるのは当然だろう。
同様のことは、コピーライティングの世界にでも言える。伝説のコピーライター、ジョン・ケープルズが書いた名著「ザ・コピーライティング」によれば、ある通販の広告ではコピーの違いで売り上げが最大19.5倍になったという。著者のクライアントの雑誌広告の事例を見ても反響に4.5倍の差がついたことがある。もし、優れたクリエイティブが4.5倍の売り上げをもたらすと分かっていたら、4倍まで時間をかけていいことになる。いや、そのコピーを載せる媒体費のことを考えたらもっとだ。
それなのに、経営者や上司は、いまだに効率ばかりを重視し、早く手を動かせなどと言っているのである。
システム開発の生産性に関するコンサルティングで知られるティモシー・リスターの法則に従えば、「人間は時間的なプレッシャーをいくらかけられても、速くは考えられない」のだ。
では、効果を生むためにビジネスマンはどのように考え、行動すべきか。常に現状を疑い、よく観察し、創造性を発揮して、クライアントに貢献することである。
本の厚さは重要ではない
重要なのはリターン
先日、米国で人気のビジネス書評家、ジャック・コヴァートがまとめた「アメリカCEOのベストビジネス書100」という本の監訳を担当した。カリスマ書評家が推薦する名著100冊を紹介したガイドブックだが、紹介されている本の大半は骨太で分厚い。ジョン・D・ロックフェラーの生涯をつづった「タイタン」などは、上下巻で1300ページの大著だ。
ジャック・コヴァート、トッド・サッターステン著「アメリカCEOのベストビジネス書100」(講談社)
ここで重要なのは厚さ(コスト)ではない。ここから何を学べるかというリターンなのだ。このガイドブック自体、500ページ以上あり、正直読むのは容易ではない。紹介されている本には絶版本や未訳本もあるため、すべてそろえようと思ったらそれなりに骨が折れるだろう。だが、そこに金塊があると知っていたなら、岩がどんなに厚くても掘るべきだ。ビジネスの世界では、参入障壁があることこそ喜ばしいのである。
そういう目で本書のリストを眺めると、実にもうかるガイドブックである。例えば、第3章「戦略を考える」で紹介されている、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」。名著として知られている本なので、既にご存じの方も多いかもしれないが、この本は起業を考えたとき、力になってくれる。ビッグビジネスの隙をついて業界地図を塗り替える。そのためのヒントが書かれている強力な本だ。
大企業が何らかの内的ジレンマで変化への対応を躊躇(ちゅうちょ)するときチャンスが訪れる。もし現在勤めている企業がそうなったら、起業のチャンスだ。
4章「販売とマーケティングのコツ」では、ロバート・B・チャルディーニの「影響力の武器」をお勧めしたい。同書は、社会心理学のバイブル的存在で、人間を動かす心理原則を6つ紹介している。返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性。この6つを完全に使いこなせれば、セールス、マーケティングの世界で大きな成果を上げられるはずだ。あなたがどんな優秀なビジネスマンであれ、人間は感情でモノを買うという事実を無視したら、成功はおぼつかない。
最後に、第10章「イノベーションと創造性」から、「発想する会社!」をお勧めしたい。この本の著者、トム・ケリーは、米国でもっとも尊敬されるデザイン会社IDEOのゼネラル・マネジャー。ちなみにIDEOは、アップルの最初のマウスや、パームV、サムスンのモニターなど、画期的な商品を世に出してきた会社だ。
著者によると、創造性の秘密は、ズバリ「観察力」にある。では、一体どうやって観察すればいいか。本書には、彼らがショッピングカートを開発する過程を通して、店頭での観察方法や、モノづくりの着眼点を伝えている。画期的新商品を開発したいと思うなら、間違いなく読むべき一冊だ。
いずれの本も、値段は高く、分厚く、しかも難解だ。だが、もしこれらの本が、今流行のビジネス書の最低でも10倍のリターンをもたらすとしたら、読んでみる気になるのではないか。
流行書の10倍もうかる本が100冊入った「アメリカCEOのベストビジネス書100」。興味がわいたら、ぜひ読んでみていただきたい。
著者プロフィール
土井英司(どい えいじ)
1974年生まれ。出版マーケティングコンサルタント、ビジネス書評家。慶應義塾大学総合政策学部卒業。Amazon.co.jpの立ち上げに参画、“アマゾンのカリスマバイヤー”と呼ばれる。2004年、有限会社エリエス・ブック・コンサルティングを設立し、代表取締役に就任。読売新聞読書面「ビジネス5分道場」の執筆やBS11「ベストセラーBOOK TV」(毎週土曜20:00~20:55)にレギュラー出演するほか、自らのメールマガジン「ビジネスブックマラソン」でも執筆中。
著書に『成功読書術』(ゴマブックス)、『「伝説の社員」になれ!』(草思社)のほか、11月に監訳書『アメリカCEOのベストビジネス書100』(講談社)を出版。