2010年1月15日金曜日

「ウツ」よく似ている若年性アルツハイマーの怖さ

ライフ・健康 > 働き盛りのビジネスマンを襲う 本当に怖い病気
【第6回】 2010年01月15日

「うつ」の症状とよく似ている
若年性アルツハイマーの怖さ

http://diamond.jp/series/sickperson/10006/

突然の怒鳴りたい衝動の後、落ち込む
軽いうつだと思っていたら
若年性アルツハイマーと診断されたEさん(57歳)のケース
突然、会議室で立ちあがり
怒鳴りたい衝動にかられる

 リーマンショック以降、長引く不景気と会社からのプレッシャーで、ストレスがたまっているせいだとEさんは思っていた。入社以来30年以上家族とも言い争いなどしたことなどないにも関わらず、会議で役員から数字の未達を指摘された瞬間に、自分のなかで何かがはじけた。立ちあがって「うるさい!」と怒鳴りたい衝動をやっと抑えた。

 Eさんのその時、自分が自分でない何かに一瞬乗っ取られる感覚、脳のザワザワ感をはじめて感じた。その高揚感のあと「一体自分はどうしてしまったのだろう?」と激しく落ち込んだ。

 50歳を過ぎたあたりから感じるようになった疲労感が、55歳を過ぎてからはっきりとカタチになってきた。月曜日から金曜日まで、電車に乗って通勤をするのが精一杯で、休日はダラダラと抜け殻のように過ごすようになった。イライラも疲れのせいだと思っていたが、どうもおかしい。まずは、全身をきちんと検査をするために、人間ドックを受けてみようとそのとき決心した。

人間ドックを受診
脳ドックで脳の萎縮を指摘される

 会社の近くの病院で人間ドックを受けた。50歳を過ぎたら一度受けたほうがよいと医師に勧められて脳ドックもオプションにつけた。頭を固定され、MRIの装置に横たわりながら、漠然とした不安に襲われた。

 人間ドック終了後、医師から意外な言葉が告げられた。「Eさん。年齢より進んだ脳の萎縮が見られます。紹介状を書きますから1度専門医を受診してください。最近何か変わったことはありますか?」

 そこで、会議室で起こったことを医師に告げようと思った。しかし言葉が出てこない。

 あの日のことを再現したいのに、あの役員の顔は浮かぶが名前も出てこない。そして現状も告げられない。「何かがおかしい」とはっきりと確信した。最近の痩せ方からみて、自分は「うつ気味」だと思っていた。しかし脳の萎縮を指摘されるとは思ってもみなかった。

軽度認知障害と診断される

神経内科でMCI(軽度認知障害)
と診断される

 紹介された病院でPETCTを受けた。PETは、がんの診断に使われるものだと思っていたので意外だった。何日かかけて様々な検査が行われた。検査というよりは、会社の個人面談のようだ。家族構成や会社のことなどを細かく、聞きとりされた。結果の診断の日、家族と一緒に来るようにと言われたときから悪い予感はあった。

 精神内科の医師から告げられた病名は、「MCI」。Eさんには、聞いたこともない言葉だ。

 軽度認知障害をこう呼ぶそうだ。「PETの検査で、初期のアルツハイマーの所見が見られました」という医師の言葉をぼんやりと遠くで聞いた。65歳以下で発症すると若年性アルツハイマーというそうだ。

 妻が横で泣いていた。その時に妻は、大好きな韓国スターが出ている若年性アルツハイマーを題材とした映画を思い出していたらしい。

 Eさんは思わず医師に聞いた。

「仕事はできますか?」

もの忘れ、突然声を荒げる…
若年性アルツハイマーによる異常

 Eさんは最近、曜日の感覚が曖昧になるときがあった。週に1回の営業会議を忘れてしまい、電話で呼び出されることが続いた。さすがに不安になり、明日「会議」と携帯電話にメモで貼っていたにも関わらず、忘れてしまっていた。また、部下に同じ報告をさせて、怪訝そうな顔をされたこともあった。

 医師の話によると、若年性アルツハイマーの進行は人によってまちまちだそうだ。ただ、仕事は職場に理解を得られることで、続くけることも可能だという。

 Eさんの場合、発見が初期だったので対処はできるが、薬が国内で認可されているのが1種類しかないそうだ。もの忘れ以外に、急に怒りだしたい衝動にかられたり、イライラするのも、またぼんやりとしてしまうのも若年性アルツハイマーの特徴ということだった。

もの忘れを自覚していても普通に暮らせることも

 Eさんの微妙な変化を気づいたのは妻だった。だらだらと休日を過ごすEさんに「パジャマを一日着て過ごすようになったらおしまいよ。定年した後も、毎日こんなだったらどうしよう。散歩でも行けば?」と言った瞬間にEさんがすごい形相で叫んだ。

「お前に何がわかる!」

 今までみたことがないEさんの姿だった。何かが違うとはっきりわかった。最近明らかに頑固になったのは、ストレスと加齢によるものだと思っていた。でも何かが違った。

 またぼんやりと落ち込む様子もあるのが気になっていた。

もの忘れを自覚していても
普通に暮らせることも

 Eさんは診断後、上司に相談して、少し負担の軽い部署に異動させてもらった。軽いもの忘れの自覚症状があるものの、幸い手帖を確認しながら仕事は続けている。定年まであと数年。下の子が大学を出るまでなんとか普通に暮らせたらと思って治療している。

 総合南東北病院もの忘れ外来の片山医師は以下のように語る。

「この方の場合は、脳ドックで脳の萎縮が見つかり、その後のPET検査でアルツハイマー病がわかったので、かなり早期に発見できたといえます。ですので、50歳になったら一度脳ドックを受診されることをおすすめします。

 進行性のアルツハイマー型認知症では、認知機能が低下していく過程で、日常生活に支障が出るまでの間に、数年の期間があります。この間の、記憶に関する障害があるが日常生活は保たれている状態を軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)といいます。ただしこれは専門医でないと診断がつかないことが多いので、もし気になった場合はぜひ受診してください。

 もの忘れを自覚していても日常生活が保たれれば、通院をしながら仕事も続けられます。

 また、我々の病院では、もの忘れドックも行っています。50歳を過ぎたらご夫婦で気軽に受けてみてもよいかもしれません」

(J&Tプランニング 市川純子)