2010年1月13日水曜日

「ウイルスを抑制」空気清浄機-性能の正しい解釈

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“ウイルスを一番防げる”空気清浄機、決め手は「抑制技術」ではない!

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20091225/1030664/

2010年01月13日

2009年、家電のなかでもトップクラスの売れ行きを誇った空気清浄機。ヒットの主因は、各社が競って投入した「ウイルス抑制技術」だ。果たしてどの機種を選ぶべきなのか、主要メーカー5社の商品を比べた。

※この記事は日経トレンディ1月号(12月4日発売)「新製品完全テスト」の一部を転載したものです。情報は基本的に発売時点のものとなります。

新型インフルエンザの流行で今、売れに売れているのが、加湿機能付きの空気清浄機だ。なかでも消費者が最も注目するのは、各機種に搭載されているウイルス抑制技術。メーカーも自社技術のアピールに力を入れる。

今回比べた、市場の売れ筋である加湿量600ml/hの各社のモデル。上段左から「プラズマクラスター空気清浄機 KC-Y65」(シャープ、実勢価格5万4800円)、「うるおいエアーリッチ F-VXE60」(パナソニック、実勢価格4万4800円)。下段左から「うるおい光クリエール MCK75K」(ダイキン工業、実勢価格5万1800円)、「ABC-VWK14B」(三洋電機、実勢価格2万9800円)、「CAF-J22K」(東芝ホームテクノ、実勢価格3万2800円)(画像クリックで拡大)

どの技術も「酸化作用があるイオン(活性種)がウイルスの表面に働きかけて、その活動を抑制する」という原理は同じだ。各社は、この活性種をウイルスに届ける技術を独自に開発している。ウイルスに付着すると活性種に変化するイオンを放出する(シャープ)、活性種を含んだ微細な水を放出する(パナソニック、三洋電機、東芝ホームテクノ)、機体内で放電して高濃度の活性種を作り出し、吸い込んだウイルスに作用させる(ダイキン工業)などだ。
各社が大きくうたう「ウイルス抑制技術」とは
(1)主に2つのタイプがある

各社の技術は大別すると、イオンや微細な水を室内に放つ放出型と、機体内で放電して活性種を作り、吸入した空気内のウイルスに作用させる吸入型がある。放出型は室内に付着したウイルスに作用する可能性があり、一方、吸入型は活性種を高濃度で作りやすいという。

●大半のメーカーの技術は放出型

放出型
シャープ  パナソニック
三洋電機  東芝ホームテクノ

吸入型
ダイキン工業

シャープ
プラスとマイナスのイオンを放出(画像クリックで拡大)

パナソニック
ナノサイズの水を放出する(画像クリックで拡大)

ダイキン工業
機体内で放電し、活性種を作る(画像クリックで拡大)

(2)あくまでも技術発表

薬事法に触れるため、製品には「~に効く」などの効能はうたえない。そこで各社は「自社技術の実験でウイルスに効果があった」という発表を行い、間接的に消費者へアピールしている。

(3)活性種なのは同じ

どの技術もOHラジカルなどの活性種を使って、ウイルス表面のたんぱく質部分に作用させて感染力を失わせるのは同じ。ただし、活性種は消えやすいため「活性種をウイルスまでどう届けるのか」という点で各社が競い合う。
“ウイルス激減”の実験結果は、鵜呑みにできない
こうした技術は、実際にウイルスをどれだけ抑制できるのか。多くのメーカーの実証実験を手がける北里環境科学センターによると「これらの技術は、実験室では効果が証明済み。だが実環境では、実験結果そのままの効果があるとは考えにくい」という。

理由はいくつかある。まず各メーカーの実験を行う環境は、かなり特殊なものだ。例えば実環境に浮遊するウイルスは空気10L中にせいぜい10個程度とみられる。だが実験では効果を正確に測定するため、10L当たり約100万個という高濃度にするのが一般的だ。各社の製品パンフレットに載っている実験は、実際の部屋とは大きく異なる条件で行っていると思ったほうがいい。

こうした実験では「ウイルスや菌の数が100分の1から1000分の1程度まで減ると、効果があると見なせる」(北里環境科学センター)。そのため試験機関では、ウイルスの数が「10の何乗」残っているかを示したデータを、実験結果として提示する(下参照)。一方で各社の製品パンフレットは、この実験データを「残存率」などパーセント表示に置き換えてグラフ化することが多い。その結果、実験で個数がさほど減っていないときでも、パーセント表示されたグラフは急角度で落ち込み、効き目が大きいように見えてしまう。

さらに各社技術の実験では、ウイルスや菌の作用を99%以上抑制するのに数十分~数時間かかることがある。だがこれよりも、空気清浄機が空気を吸い込んでフィルターでこし取るほうが、ウイルスや菌を素早く抑制できる可能性は高い。空気清浄機の性能には各社の独自技術より、フィルターが寄与する部分が大きいとみられている。

各社のウイルス抑制技術の
効果はかなり限定的とみられる

1 実験環境は現実とは大きく異なっている

例えば浮遊ウイルスの実験は、普通の部屋の数十分の1の小さな空間(1m2)に、実環境の何万倍の個数のウイルスを浮遊させて行うことが多い。「この実験結果が、実際の部屋でもそのまま通用するとは考えにくい」と専門家は言う。

2  そもそもフィルターのほうが即効性がある可能性が高い

浮遊ウイルスの場合、各社技術がウイルスに作用するよりも速く、空気清浄機が空気を吸い込んでフィルターでこし取ってしまう可能性のほうが高い。

●グラフの「書き方」で効果が大きく見える部分も

フィルター性能、掃除のしやすさともに勝るシャープ
現在、空気清浄機に搭載されているフィルターには主に3タイプある。今回比べた5機種を見ると、シャープや東芝の製品は、0.3μmの粒子を99.97%カットできるフィルターを搭載。パナソニック、三洋電機の製品は95%カット、ダイキン工業の製品は80%カットの性能だ。パーセンテージを比べると、各社ともさほど差がないようにも見える。だが例えば99.97%カットの性能ならば1万個の粒子中3個しか外に漏らさないが、95%カットならば500個と、性能には開きがある。まずこの点で、シャープや東芝はすぐれているといえる。

加湿機能付き空気清浄機は、水を使うこともあり、フィルターなどの手入れにも手間がかかる。そこで、この5機種について、各機種の掃除のしやすさも比べた。

多くの機種は、2週間に1回の頻度でフィルター部の手入れが必要になる。だが唯一、1カ月に1回でよかったのはシャープの製品。また加湿フィルターや大きなホコリがたまるプレフィルターの手入れが簡単で、手間を少なくする配慮もなされていた。

最後に、製品購入後にフィルターの交換でかかるコストを比較した。10年間使うことを想定すると、フィルターが交換不要で追加コストが0円だったのはシャープとダイキン工業。パナソニックは脱臭フィルターを買い替える必要があるが、追加コストは約4700円だ。一方で、三洋電機や東芝は、フィルターの買い替えで1万5000円以上かかる。
【結 論】
前ページで述べたように、各社のウイルス抑制技術は、製品選びの決め手にはならない。一方、ウイルス除去に重要なフィルター性能や掃除のしやすさ、交換コストを比べると、シャープの「KC-Y65」が総合的に優れている。フィルター性能ではシャープに及ばないが、パナソニックの「F-VXE60」にも欠点はなかった。この2機種が比較的すぐれているといえそうだ。

プラズマクラスター空気清浄機 KC-Y65

シャープ・実勢価格5万4800円

放出型

●サイズ・重さ/幅378×高さ593×奥行き265mm・約9.3kg●適用床面積/プレハブ洋室17畳(加湿)●集じんスピードの目安/8畳で約10分●加湿方式/気化式●加湿量/600ml/h●運転音/強46dB、静音20dB

フィルター性能が優秀
機体の掃除もしやすい

高性能フィルターを搭載しており、捕集性能はトップクラス。またプレフィルターや加湿フィルターの掃除や手入れがしやすいのも魅力だ。昨シーズンの機種は加湿フィルターの寿命が2年だったが、この製品は防カビ・抗菌機能を強化して寿命が10年に延長。そのため10年間の交換コストが0円になっている。

◎フィルター性能
集じんフィルターは0.3μmの粒子を99.97%捕集できる。今回取り上げた機種のなかでは、東芝と同じく優れている
◎掃除のしやすさ
フィルターの手入れは1カ月に1回でよい。フィルターのホコリを掃除機で吸い取るときも、他機種とは違い、本体のパネルを開けずに掃除できる構造になっている
◎10年間の交換コスト
集じんフィルター、加湿フィルターともに10年の寿命があり、交換コストは0円だ

加湿フィルター部(画像クリックで拡大)

製品の裏面にあるプレフィルター部。本体を開けなくともホコリを取れる(画像クリックで拡大)


うるおいエアーリッチ F-VXE60

パナソニック・実勢価格4万4800円

放出型

●サイズ・重さ/幅390×高さ608×奥行き275mm・約10kg●適用床面積/プレハブ洋室17畳(加湿)●集じんスピードの目安/8畳で約10分●加湿方式/気化式●加湿量/600ml/h●運転音/ターボ53dB、静音18dB

フィルター性能は普通
掃除、コストも問題なし

フィルター性能ではシャープ、東芝に一歩譲るが、加湿フィルターの洗いやすさなど手入れの面では問題ない。10年間の交換コストも約4700円と高額ではない。
○フィルター性能
集じんフィルターは0.3μmの粒子を95%捕集できる。シャープ、東芝には及ばないが、「集じん効率が落ちにくい特性を持っている」(同社)
○掃除のしやすさ
本体内の集じんフィルターは2週間に1回、表面のホコリを掃除機で取る必要がある。加湿フィルターが洗いやすいのがよい
○10年間の交換コスト
寿命が7年の脱臭フィルター(1枚4725円)のみ、買い替える必要がある

床上付近に漂うハウスダストを吸い込むための、独自機構を搭載している(画像クリックで拡大)


今回の評価項目

1 各機種のフィルター性能に大きな違いはあるのか
「0.3μmの粒子を何%除去できるのか」という基準で、各機種のフィルター性能を比べた。なおウイルスも、こうした大きさの粒子に付着して空気中を漂っているとみられている

2 掃除の手間はかからないのか
加湿機能付きの空気清浄機は、プレフィルターや加湿フィルターなど、手入れが必要な部分が多い。そこで掃除の頻度や各部分の掃除のしやすさ、水洗いの際の手間などを調べて比較した

3 交換コストはいくらかかるか
加湿フィルターや集じんフィルターは、数年ごとに買い替えが必要になることも。そこで各機種のフィルター寿命や販売価格をもとに、10年間の利用時にかかるコストを計算、比較した

(文/荒井 優=日経トレンディ)